(※写真はイメージ)
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 サントリーのCMがまたまた炎上している。以前にも当連載の第185回「サントリーとユニ・チャーム「炎上するCM」の共通点」でもお伝えしたとおり、つい2ヵ月前の7月上旬にビールの新ブランド「頂」のプロモーション動画が炎上騒ぎを起こしたばかりなのに、またまた炎上騒ぎである。

 近年、企業CMやプロモーション動画が炎上騒ぎを起こすことは珍しいことではなくなったが、それにしてもこうも連続して炎上するとは、サントリーに対してはご愁傷様としか言いようがない。というか、企業としてちょっと迂闊なようにも思える。

 しかし、実のところ、今回の件はそう簡単なことでもない。企業のCM炎上事件は、社会の文化的文脈(コンテクスト)を理解していればちゃんと防げるものも多いが、それだけでは対処のしようがない状況も生まれつつあって、それは世界中の企業が直面している重要な課題であるが、今回のサントリーの件はその典型的な事例であると考えられる。ある意味で、2ヵ月前の「頂」炎上事件と、今回の炎上事件は、同じ炎上とは言っても、重要性もその扱いのやっかいな点においても、まったく事情が違う。

 そこで今回は、この炎上事件を事例として、現在の企業が置かれている「やっかいな状況」について考えてみる。

●この炎上事件は本当に単なるヘイト論争だったのか?

 まず、今回のサントリーCM炎上事件の概要を説明する。炎上したのは、サントリービール株式会社の商品「ザ・プレミアム・モルツ」のキャンペーンにおけるtwitter投稿。9月7日にtwitter上に、同商品の公式アカウントで「金曜日のご褒美キャンペーン」の告知が投稿されたが、このキャンペーンキャラクターとして起用されている女優でモデルの水原希子に対して、「エセ日本人」「なぜ日本人を使わないのか」などと批判リプが多数ついた。すると今度は、この批判リプに対して「差別だ」「ヘイトだ」という「批判に対する批判」が巻き起こり、ネット界は騒然となった。

 水原希子は日本の芸能界で日本人名で芸能活動を行っているが、父親はアメリカ人で母親は韓国人。テキサス州ダラス生まれで国籍はアメリカ合衆国で、いわゆる在日アメリカ人だ。つまり日本人ではない。「水原希子のキャンペーンモデルとしての起用を批判している人たち(本稿では批判派としておく)は、この水原の出自を理由に差別している。これはヘイト発言だ」ーーこれが「批判に対する批判」を行っている人たち(反ヘイト派としておく)の主張である。

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