
20歳で迎えた2018年シーズンは、大坂なおみに多くの変化をもたらした――。
コーチのサーシャ・バヒンをはじめとする新チームを結成し迎えた新シーズンは、全豪オープン4回戦進出という、過去最高の戦績で幕を開けた。何もかもが新鮮な中で躍動する彼女の快進撃が、一つのピークを迎えたのが3月のインディアンウェルズ(BNPパリバオープン)。“第5のグランドスラム”と称されるこの大会で、大坂なおみはマリア・シャラポワや世界1位のシモナ・ハレプらを破り、頂点へと駆け上がる。
子供の頃から対戦を夢見た憧れの選手との戦いに、連日センターコートで声援を浴びる高揚感――それら「テニスの楽しみ」に身をひたしながら、彼女は「伸び伸びとボールが打てていた」。
だが、20歳で手にした眩いばかりの栄光は、彼女の周囲の景色に、今までとは異なる陰影を描く。高まる観客たちからの注目度に、求められるメディアやスポンサーへの対応。
「勝つことを期待されていると感じ、それがストレスになった。単に楽しめば良いのではなく、大きな責任を伴うのだと感じるようになった」
それは4歳の時に家族と共に始めたテニスを、彼女が「もはや趣味ではなく、これは仕事なんだ」と強く感じた瞬間だった。
テニスに対する思いの変化に、大坂自身が自覚的になったのは、ウィンブルドンを終えアメリカに帰ってきた時のことである。
「ハードコートに戻ってきて、どう感じるか?」
多くの人達たちからそう問われるたび、周囲が抱く期待を改めて知った。北米のハードコートなら、またインディアンウェルズの時のように活躍するのではないか……? そのようなファンや関係者たちの思いが一層、彼女から「テニスを楽しむ感覚」を削り取る。
「私にとっては全てが初めての経験だったので、どのように対処したら良いのか分からなかった」
戸惑いに揺れた心の内を、彼女はそう追想した。
初めて直面する状況に折り合いをつけられぬまま戦った大坂は、ワシントンは2回戦、カナダでは初戦で敗退する。