森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表
森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表
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注射や採血などの小さな処置であれば、当日になってから説明することで不安を最小限にすることができる(※写真はイメージ)
注射や採血などの小さな処置であれば、当日になってから説明することで不安を最小限にすることができる(※写真はイメージ)

 日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、2人の女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は、自身も1児の母である森田麻里子医師が、子どもへの予防接種で痛みを軽減させるための対応や不安を取り払うある言葉について「医見」します。

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 予防接種は、子育てをする上で避けて通れないものです。赤ちゃんのうちは本人もわけがわからない間に終わっていましたが、息子も1歳を過ぎてだいぶ理解力が増し、注射後になかなか泣き止まないかもしれない、などの心配もでてきました。親として、どう対応してあげるのが良いのでしょうか?

 薬物を使わない注射の痛み対策については、実は研究も行われています。最も効果が高いのは「痛みから気をそらす」ことです。

 例えば、2002年にウエストバージニア大学の研究者が発表した論文があります。予防接種を受ける3カ月~2歳までの子ども90人を2つのグループにわけ、一方のグループでは処置中に幼児向け番組のビデオをみせたり、おもちゃを使うなどして、注意をそらすようにしました。すると、注意をそらさなかったグループの客観的痛みスケールは3.33満点中1.99点だったのに対し、注意をそらしたグループは1.56点と、有意に低下していたのです。

 最近では、VR(バーチャル・リアリティ)を使った研究も増えています。2017年のロサンゼルスこども病院の研究では、採血を受ける10~21歳の患者143人を2グループにわけ、一方のグループには処置中にVRを装着してもらいました。VRの内容は、首を動かすことでカノン砲の向きを調整し、くまのマスコットを倒していくというゲームです。処置の痛みを評価する数値を調べると、VRを使わなかったグループは10点満点中1.9だったのに対し、使ったグループは1.7と有意に低いという結果になりました。

 私も医療用VRを体験する機会があったのですが、VRは視野全体が画面になり、首を動かすと見える風景が変わっていきます。ただビデオを見るのとは全く違い、確かにその世界に入り込んでいるような感覚がありました。

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試験的にVRを活用しているのは