その後もジョナサン・ブレイクやベン・ウィリアムスなど、渡辺は孫の世代のミュージシャンとともに演奏を続けている。
「常に若い活きのいいプレイヤーを探しています。刺激がほしいんです。ジョナサンもベンも今の時代を生きているプレイヤー。今の音を持っています。僕は彼らのセンスを吸収したいんですよ」
自分より経験量は少なくても、今の感覚を持つ人材には積極的にアプローチする。音楽家に限らず、どんな仕事にも必要なマインドだ。だから、渡辺の音には今も若さがあり、新鮮さがある。その一方で、ステージ上の渡辺には巨匠だからこその“たたずまい”も、もちろんある。演奏はもちろん、表情やしぐさは実に味わい深い。たとえば、曲間でリードを選ぶ姿は魅力的だ。リードとは、マウスピースに取り付ける器具。サックスは呼吸器でリードを震わせ、楽器のボディを鳴らす。
「1回のステージに、リードは100枚用意します。10枚入りを10箱です。もともと植物の“葦”なので、1枚1枚微妙に違う。自分と相性のいいリードは10枚に3枚あればいいほうかな。ジャズ用は厚く、大きな音が鳴ります。でも、音がなかなかキャリーしません。つまり、後方の客席までなかなか演奏が届かないんです。だから、中心部が薄いクラシックの演奏家が好むリードを僕は好んで使っています」
巨匠はその人にしかない音を持つ。渡辺が渡辺だけの音で演奏している理由の1つには、リードの厳選も重要なのだ。
さて渡辺は、70年近いキャリアを重ね、今なお新しい自分を感じている。
「自分の演奏をより俯瞰して見られるようになりました。以前よりも音が見えるようになった。だから、どんどんおもしろくなっています。でも同時に、いい演奏がしたいという欲求がさらに高まっている。常にベストを尽くしていても、いいときも満足できないときもあります。1つのステージでも、満足できる曲とそうでない曲があります。いい状態をどれだけ持続できるか、よくないときに開き直れるか。そんなことを思ってプレイしています」
音楽は生もの。その夜の渡辺だけの音、東京JAZZでも味わいたい。
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