「パワー・オブ・ラヴ」のイントロとともにセリーヌ・ディオンがステージに現れた。ゴールドの髪。ゴールドのスーツ。ステージの背景はアメリカの都市の夜景。花火のような光の柱が空へ打ち上げられる。ラスベガスのホテルのショーを見る気持ちになった。曲のエンディングは透き通るようなロングトーン。会場は完全に彼女の色に塗り替えられた。
セリーヌの10年ぶり5度目の来日公演は6月26日(火)、東京ドームで行われた。客席は満杯。アリーナはもちろん、スタンドも2階席最上段まで人で埋まっていた。
2曲目でストリングスが加わり、パイプオルガンのような映像をバックに「ザッツ・ザ・ウェイ・イット・イズ」を歌いあげたセリーヌは日本語で挨拶をした。
「こんばんは、東京! 皆さん、元気?」
大スターの恥じらうような笑顔に5万人が拍手を送る。
「愛する日本からツアーを始めたかったの。ちょっと緊張しています」
「ビコーズ・ユー・ラヴド・ミー」「愛をふたたび」「オール・バイ・マイセルフ」「トゥー・ラヴ・ユー・モア」「リヴァー・ディープ・マウンテン・ハイ」……。1曲ごとに拍手と歓声に包まれるセリーヌ。日本では5月に『ザ・ベスト・フォー・ファー… 2018ツアー・エディション』がリリースされた。18曲収録されたこの来日記念盤の中からセリーヌは11曲もセットリストに選んでいる。抜群のサービス精神だった。
セリーヌのショーはとことん映像的だ。ゴールド、ネイビー、ピンク……と5回のドレスチェンジ。ドームの天井を刺すようなライティング。ドラマティックな映像。
そして、歌そのものも映像的だ。彼女のナンバーには映画音楽が多い。1992年の『美女と野獣』のテーマ「ビューティー・アンド・ザ・ビースト~美女と野獣」、現在公開中の『デッドプール2』のオープニングテーマ「アッシュズ」、そして1997年の『タイタニック』のテーマ曲「マイ・ハート・ウィル・ゴーン」。イントロが鳴ると、オーディエンスは歌を楽しむだけでなく、映画のシーンを思い出し、さらに映画を観たときの自分がよみがえる。『美女と野獣』を並んで観た若かりし日の夫と自分や、『タイタニック』で涙した2度と会うことのないかつての恋人がよみがえる。音楽はプライベートの記憶とセットで脳に格納されているのだ。ケルト民謡で使われる笛、ティン・ホイッスルによる「マイ・ハート・ウィル・ゴーン」イントロが響くと、ついにこらえきれず、ハンカチで涙を抑える女性がいた。