■恐ろしく“強気な弱気采配”
会場が盛大なブーイングに包まれたのは当然だ。残り時間10分とはいえ、プレーを止めてしまったのは確かで、明らかな無気力試合なのだ。西野監督も「本意ではない」と話していた。しかし決勝トーナメントへ進むために何がベストかを考えたうえでの決断であり、結果としてそれが当たったのだから、不満はあっても飲み込むしかないのが多くのファンの心情だろう。その点は監督やチームも同じということだ。「これがサッカーだ」と開き直るのはおかしいし、「日本も大人のサッカーができるようになった」と喜ぶのも奇妙だ。
外国のメディアが日本のやり方を批判するのは理解できるが、彼らの大半も日本と同じ立場なら同じことをしたのではないか。少なくとも談合の実績があるドイツやオーストリアに批判する資格はないだろう。日本が談合を持ちかけて勝ち抜いたことは、恥ずかしい部分はあるとはいえ、少なくとも不正ではない。自力決着を諦めたので「弱気」と批判する向きもあるかもしれないが、ある意味恐ろしく強気な弱気采配なので、わけがわからない。
何より日本は強豪国ではない。だから許されるというつもりはないが、石にかじりついてでも進もうという執念と修羅場での冷静な判断は、素直に評価してもいいのではないだろうか。(文・西部謙司)
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