実は、似たような展開がメキシコ五輪(1968年)のときもありました。「勝ったらいかん」試合です。予選グループでスペインが勝ち点4の1位、日本は勝ち点3だった。準々決勝に上がるチームが決まるグループ第3戦で日本がスペインに勝って1位になれば、準々決勝で開催国のメキシコと、2位で進出すればフランスと当たることがわかっていた。

 そのスペイン戦は前半終わってスコアレスでしたが、後半20分すぎたくらいかな、同組2位になるチャンスがあったブラジルとナイジェリアの試合経過が場内で放送されたんです。いまと違って電話なんかできんからね。その放送は「ブラジルが負けている」だったんです。そしたら監督から「引き分けで良い」と。

 つまりそれは、グループ1位で突破して地元メキシコと当たるくらいなら、2位で進んでフランスと対戦したほうが良いとの判断からでした。ただ、それはスペインも同じ。日本にどうしても負けたいわけです。2位になりたかったんです。もう50年も前の話ですが、そういう駆け引きがあるのは今も昔もまったく不思議じゃない。予選を勝ち抜かなければいけないんですから。

 パス回しばかりで、見てる人はおもしろくないと思う。だけどプレーしてる選手や監督、コーチは「0-1で負けてもいいんだ」というその瞬間の判断です。それこそ、本当の「勝負」だよね。あれは西野監督ならではの判断ではなく、誰が監督やったって、あの戦術を選択しますよ。それに、パス回しをやってまで勝ち上がったからって、選手たちの間でマイナスのイメージになることはない。むしろ、決勝Tに進まなければならないことは、選手たちが一番わかっている。決勝Tは、それほど重い。

 大会を通して、選手の誰が優れているとか実力が出ていないとかではなく、みんなが惜しむことなく実力を出し切っているよね。大会前の評判、それは低かったでしょう。でも、コロンビア戦のあのレッドカードが、ある意味、日本にツキを呼び込みましたね。あれがなくてもし11人同士で試合をやっていたら、おそらく日本は負けていたでしょう。2点目の(大迫の)ゴールも、あのレッドカードから始まっていたんです。

 GK川島もいろいろ言われていたようだけど、ポーランド戦で使うのは当然です。そもそも何で川島が酷評されなければならないの? あの(セネガル戦)パンチングのミスがダメだったってこと? あれは仕方ないよ。その前に何でシュートを打たれたんやってこと。クリアしてコーナー(キック)にしていたら、あんなシーンはなかった。川島が気にするようなプレーではまったくないんです。

 決勝Tはどこと当たっても困難が予想されるけど、次のベルギーは、ヨーロッパ最強のチームだと思っている。正直、日本が120%の力を出し切っても勝てる相手ではない。それくらい強いでしょう。それでも勝ちに行かなければならない。西野監督が勝つために何を考えているのか、いまから楽しみやね。

(構成/井上和典・AERAdot.編集部)