「たまたまじゃないッスか」
しかし、こんなもんがたまたまなら、相手にする方はたまったもんじゃないだろう。
師と敬愛する糸井の本拠地・甲子園での対戦。強い浜風は、右翼から左翼へ。引っ張り込んだ打球も、その強風に流され、スタンドインが難しい、左打者泣かせといわれる甲子園。「ホームラン、無理っす」と笑わせた柳田だったが、交流戦開幕戦の1回、2死一塁から阪神の先発・メッセンジャーの投げ下ろす147キロのストレートを左中間へ運ぶ二塁打でチャンスを拡大。得点にはつながらなかったが、そのパワーを早速、見せつけていた。
両軍無得点のままで迎えた9回。柳田だからこそ生まれた決勝打があった。無死一、二塁のチャンスでの第4打席。1点もやれない状況だけに、普通の打者相手なら外野手は通常より前に位置する。シングルヒットで生還されるのを避けるため、左翼は三遊間に位置するといってもいいくらい、極端なシフトを敷くのだ。
しかし、相手は柳田だ。外野手の頭を越されると、1点どころか、2点を奪われる。阪神の外野手は、通常の位置に立った。柳田だから、前に出られないのだ。
その分、バッテリーは外角中心に攻め、せめて、引っ張られないようにする。力強い打球がいかないようにすれば、長打はない。
しかし、柳田はこういうときに、技術の高さを見せる。
2ストライクと追い込まれての3球目。ドリスは外角低めへ141キロのスプリットを投じると、柳田はこれを三遊間へ流し打った。
左翼へ打球が転がる。守備の名手・福留孝介が猛チャージをかけたが、前進守備ではない分、間に合わない。福留のグラブにボールが収まったとき、二塁走者・今宮健太はすでに三塁を回って、本塁手前だった。
まさしく、技ありの流し打ちは「何とかしたいという気持ちでした」。ヘルメットが脱げる、独特のフルスイングばかりではないのだ。この決勝打を含め、この日は2安打。翌30日も2安打、31日はノーヒットも、ソフトバンクは3連勝。かたや糸井は、30日に2安打を放っただけで打点なし。ともに4番の「怪獣対決」は柳田に軍配が上がった。