お笑いコンビ「オードリー」の若林正恭 (c)朝日新聞社
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 オードリーの若林正恭が2017年に刊行した著書『表参道のセレブ犬とカバーニャ要塞の野良犬』(KADOKAWA)が、旅に関する優れた紀行文、エッセイ、ノンフィクションに贈られる第3回「斎藤茂太賞」を受賞した。

 同作は、資本主義や新自由主義にどっぷり浸かって生きてきた自分の現状に疑問を感じた若林が、仕事の合間を縫って5日間のキューバ旅行に出かけた体験を描いたもの。審査員を務めた作家の下重暁子は、若林の「ピュアな視点、ものの考え方」が高評価の理由だと述べた。

 このところ、文筆業で才能を発揮する芸人たちの受賞ラッシュが続いている。バカリズムが脚本を務めたドラマ『架空OL日記』は「第36回向田邦子賞」を受賞。髭男爵の山田ルイ53世が手がけた「一発屋芸人」を題材にしたノンフィクション連載『一発屋芸人列伝』は「第24回編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」の作品賞を受賞した。

 さらに、カラテカの矢部太郎が50歳以上年上の大家さんとの交流を描いたエッセイ漫画『大家さんと僕』は、第22回「手塚治虫文化賞 短編賞」を受賞した。いずれの賞も芸人の受賞は初となる。

 この受賞ラッシュの先駆けとなったのはもちろん、ピースの又吉直樹が文芸賞の最高峰の1つである芥川賞を受賞したことだろう。それ以降、芸人が書くものは単に読者にとって面白いと思われるだけにとどまらず、出版業界内でも高く評価されるようになっている。なぜ文筆業で才能を発揮する芸人が多いのだろうか。

 そもそも、現代の芸人は総合的な能力が求められる職業である。一昔前までは、漫才の台本を書く「漫才作家」という職業があり、書き手と演じ手は分かれていた。

 しかし、今では、多くのコンビが自分たちでネタを作っている。「演じる能力」と「作る能力」の両方が必要になっているのだ。

 さらに、芸人がテレビに出ることが一般的になり、出られる番組のジャンルも増えて、出るときの役割も多様になってきた。ネタやトークをするだけではなく、クイズ、リアクション、コメントなど、幅広いニーズに対応しなくてはいけない。そうやって鍛えられることで、芸人は総合的にクリエイティブな能力を高めていくことになる。

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