■若者はSNSというメディアのステレオタイプ

 ただ、僕にとって、携帯電話戦略ですか?と問われているのと同じ感覚だった。「SNS戦略というほど私たちはSNSに特別な意識はありません。日常の一部です。友達の携帯番号やメールアドレスは知りません。SNSでしか友達に連絡がとれません」

 ネットの活用をわざわざ掲げないのも一つの意図だった。

 4月8日、ついに告示日を迎えた。補欠だった野球部時代、バッターボックスにも立てなかった。多くの支えによって、バットを振るスタートラインに立つことができた。失うものは何もない。全てをさらけ出そう。お金も、組織も、知名度もない。けれど、僕にはたくさんの仲間がいる。

 完全無所属、無鉄砲と揶揄されながらも僕は出馬に踏み切った。結局、現職と私以外に、2人が出馬を表明、4人での戦いとなった。初日に集まった仲間は、100名を超えた。おそらくポスター貼りはどの陣営よりも早かっただろう。

 練馬区のポスター掲示板は、71地域に分けられ、合計584箇所あった。1地域に1人を配置すれば、1人約8枚ずつで貼り終わることができる。不測の事態に備えて、予備の人員も必要だ。ライングループに84名が集結した。

「選挙史上最速でポスター貼りを終わらせるぞ」

 これがポスター部隊の合言葉だった。結果、お昼頃には、ほぼ全ての地域で終了の報告がライングループに流れていた。

 他にも、区長選挙のみ許されている「ビラ」がある。これは、選挙中、有権者に配布できる。その数、16000枚。しかし、このビラには、選挙管理委員会から配られる「証紙」と呼ばれるシールを貼らなければ、配ってはいけないルールがある。この証紙貼りも選挙3日目には全て貼り終わっていた。

 迎えた第一声。初めての演説で、どきどきはしていたが、自分の話せることを話したらいいと言われてから気は楽になっていた。

 あとで聞いたところによると、いきなり「具体的な政策は話さない」と言ったので、政治をよく知る人はずっこけたらしい。

 練馬区の課題も、具体的な政策も、徹底的に調べ、詳しい人に聞き、自分なりに落とし込んだ。それでも、あえて政策や課題について明言を避けていたのは、どこか僕自身が話している感じがしなかったからだ。個々の問題の現場がどれだけ大変な思いをしているか、ほとんど足を運んだこともないのに、ネット上の知識をひけらかすことは本望ではない気がした。

 僕自身のこと、実現したい社会、3つのビジョンを中心に第一声を終えた。しかし、それと同時に、どこかに違和感を抱いていた。

次のページ
「今すぐ出馬をとりやめてこい」と叱られ…