「なんか最近あいつ様子おかしくない? という直感には、けっこうな確率で背景にメンタルヘルス不調が隠れています。ですから普段から部下とコミュニケーションをとり、ちょっとした変化に気付けるよう観察力を養うことが重要です」。具体的には、上に挙げたストレスサインのうち、パフォーマンスに着目すると変化が分かりやすいと、小橋氏は説く。

 眠れない、食欲がないといったメンタルやフィジカルによる症状は、確かに本人から言ってこなければ、なかなか変化に気付けない。だがパフォーマンスの異常は、外部から観察することが比較的容易だ。「勤怠のトラブル、職場でのトラブル、顧客とのトラブル、家族・友人・恋人等とのトラブルなど、元々そうではなかったのに、最近トラブルメーカーになったという場合は、要注意です」

 部下の異常に気付いた場合、まずは本人の話を聞く。その際はプライバシーの確保された場所で、本人が安心してゆっくりと話せるような状況を作り出すことが大事だと、小橋氏は話す。「一方的に質問したり自分の価値観や経験談を押し付けたりせず、カウンセリングの基本である傾聴・共感・受容といった態度を全面的に醸し出した面談の進め方が望ましい。私はこういった特性を全て兼ね揃えているのが、ちびまる子ちゃんの祖父、友蔵だと気づき、実際に産業医訪問先では上司の方に、『友蔵マインドを心がけてくださいね』とアドバイスしています」

 パフォーマンスに影響が出ているような場合は、部下の同意のもとで産業医など専門スタッフ窓口へ繋いでほしいと、小橋氏はいう。自分の部署の範囲内で解決しようとしているうちに、不幸にも部下に何かがあった場合、法的な責任問題にもなりかねないからだ。「やはりは餅屋。パフォーマンスの異常が疾病によるものかそれともただの遊び疲れなのか、専門的な立場から判断するのは、産業保健スタッフや専門医の仕事です。信頼して繋いでいただきたいと思います」

 人は五感で確認できないものや、五感で確認できても自身の力ではコントロール不可能なものには、不安や恐怖の念を抱く。古代の人々は月や星の見えない闇夜を、魑魅魍魎がうごめき人々に危害を加えるものだと畏れたという。

「新しい環境に放り込まれた新入・若手社員にとって、職場は魑魅魍魎のいる場所そのものです」と小橋氏は話す。「上司は闇夜をランタンで照らしてあげて、まずは職場や業務の全体像を、ぼんやりと五感で確認できるようにしてあげるべきです」。全体像が確認できるようになれば、職場におけるストレスもある程度可視化できる。「ただし、いくら可視化させたといっても、スキルや経験を大幅に超えた業務は過度なストレスとなるので、注意が必要です。また人間関係での不安は、なるべく取り除いてあげたい。お互いがお互いのトリセツ(取り扱い説明書)を共有できる関係になれれば、人間関係も円滑になるのではないでしょうか」

 たかが五月病、されど五月病である。余計な不安を可能なかぎり安心に置き換えることで新入・若手社員に生き生きと働いてもらい、最大限のパフォーマンスを発揮してもらえるようにしたいものだ。(五嶋正風)