核拡散に比較的厳しい態度で臨んでいたオバマ政権に比べて、トランプ大統領は、アメリカ国内で衰退の一途をたどっている原子力産業のてこ入れに、と、サウジが核不拡散のための厳しい条件を飲まなくても米サウジ原子力協定を結ぶのではないかとも言われています。
しかし、アメリカがサウジにウラン濃縮や再処理の権限を認める場合には、その決定が世界の核不拡散に与える影響は極めて大きなものとなります。
例えば、「ゴールド・スタンダード」とされている米UAE協定は、UAEが中東における最恵国待遇を受けるという条件で結ばれているため、サウジに再処理やウラン濃縮の権利が認められた場合には、UAEは「我こそも」と言うことができるようになります。UAEがそれを言い出した時点で、目指すべき基準であった「ゴールド・スタンダード」は崩壊に至ります。
そうなれば、世界の核不拡散体制は一気に弱体化していきます。
そんな可能性をはらむ極めて危うい状況の中で、日本は「日本が認められているのであれば我も」と指摘を受ける使用済み燃料の再処理に固執し続けて、プルトニウムを蓄積し続けてきました。
日本に再処理を許してきた日米原子力協定は締結から30年の期間を経過し、今年7月に満期を迎えます。日米双方から改定の申し出がなかったために、現時点では協定の自動延長が決まっていますが、これからはいつでも改定ができるようになります。日本に経済的利益ももたらさず、世界の不拡散体制を脅かすこの再処理や核燃サイクルを、日本は一度立ち止まって見直すべきです。(国際弁護士・猿田佐世)