2018年シーズンが開幕して約1カ月が経ち、連日熱戦が繰り広げられているが、懐かしいプロ野球のニュースも求める方も少なくない。こうした要望にお応えすべく、「プロ野球B級ニュース事件簿」シリーズ(日刊スポーツ出版)の著者であるライターの久保田龍雄氏に、80~90年代の“B級ニュース”を振り返ってもらった。今回は「何でそうなるの?編」だ。
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選手は野球のルールを理解していても、咄嗟の場合、目の前のプレーに集中するあまり、肝心なことを見落としてしまうこともある。そんなエアポケット状態が珍サヨナラゲームを生みだしたのは、1991年6月5日の広島vs大洋(横浜)
2対2で迎えた9回裏、大洋は3四球で1死満塁とサヨナラのチャンス。ここで清水義之は紀藤真琴の初球を捕手の守備範囲にあたる三塁ライン付近に打ち上げてしまった。打球は達川光男が懸命に差し出すミットをすり抜けるようにして、フェアグラウンドに高く弾んだ。
慌ててボールをつかんだ達川はすぐさま本塁ベースを踏んだ後、ボールを一塁に転送した。
通常のケースなら、併殺でスリーアウトチェンジになるはずだった。
ところが、谷博球審は三塁走者・山崎賢一のホームインを認め、ゲームセットを宣告した。
なぜそうなるのか? 実は、清水の打球はインフィールドフライが宣告されており、達川がダイレクト捕球しなくてもアウトだった。三塁走者の山崎は進塁の義務がないため、達川が本塁ベースを踏んでも封殺にはならず、山崎にタッチしなければアウトにできなかったというわけだ。
谷球審から説明を受けた広島・山本浩二監督は「ウーン、ルールやからねえ。これじゃ、抗議のしようもないよ」と渋い表情。一方、大洋・須藤豊監督は「野球はどこに何が隠されているかわからないねえ」とニンマリだった。
味方のピンチを救ったはずが、思わぬ珍サヨナラ負けを招く結果になった達川は「何であんなことやったんや、と悶々としているうちに朝になっとった」そうだが、翌日の大洋戦で前夜のポカを帳消しにする満塁の走者一掃の決勝二塁打を放ち、「これで寝られる!」と破顔一笑した。
ちなみに2016年5月4日の巨人vs広島(マツダスタジアム)もインフィールドフライ絡みの珍サヨナラゲームとなり、今度は広島が25年前のリベンジをはたす形になった。