さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第48回はマレーシアのコタキナバル国際空港から。
* * *
マレーシアのクアラルンプールからボルネオ島のコタキナバル国際空港に到着した。空港内には、「国際線、半島、サラワク、ラブアン」という乗ってきた飛行機の出発地を示す表示があり、進む方向が示されている。その矢印に沿って進むと、イミグレーションのようなブースがあった。
そこでパスポートを提示し、指紋をとり……とマレーシア入国と同じことが行われた。そしてクアラルンプールで捺されたスタンプの脇に、サバ州のスタンプ。コタキナバルはサバ州の州都である。
「ここまでやっているんだ」
コタキナバルははじめてだった。空港内表示の半島とはマレー半島のマレーシアである。ボルネオ島のサラワク州や沖合のラブアン島もマレーシア領。同じマレーシア国内でありながら、サバ州に入るときは入国審査のような手続きが必要になる。
サバ州に強い自治権が与えられているからだ。サバ州はマレーシア国内にあるが、独自の行政や財政が敷かれている。
その理由? シンガポールがかかわっている。第2次大戦後、マラヤ連邦が誕生する。牽引したのはル・ラーマンである。半島のマレーシアだけでなく、シンガポールやボルネオ島のサバ州、サラワク州なども加わった。
いくつかの駆け引きがあった。経済的にはシンガポールの存在は大きかった。しかしマレー人の国をつくるという大義の足を引っ張ってしまう。シンガポールは華人が多数派だったからだ。ラーマンはマレー人比率を高めるために、サバ州やサラワク州に頭をさげたといわれる。その見返りが自治権だった。やがてシンガポールはマラヤ連邦から離脱するのだが。