一塁ベースを回ったところで、アウトを確認した松井が、マウンド後方を小走りで、三塁側ベンチへ戻っていく、その時だった。笑顔の松坂が、帽子のつばに右手を添えた。小さく、一度だけ、頭を下げた。その一瞬、こちらも笑顔の松井が、軽くうなずいた。そのアイコンタクトは「こういう時にしかできないですからね」。
戦う2人にしか共有できない空間と時間が、そこに生まれていた。
「苦しい時期がある中で、彼も野球をやっているわけじゃないですか。僕もそうです。マウンドに立っている姿を見ると、何というのかな……。本人もこれからだと思うけど、まず、この段階というのか、対戦できてよかったと思います」
松坂より5歳年上の松井は、2004年にメジャーへ移籍した。松坂がレッドソックスへ移籍したのはその3年後だった。2007年のワールドシリーズでは、ロッキーズの松井と、レッドソックスの松坂が対戦。第3戦で「1番」に入った松井は、先発の松坂からヒットも放っている。
松井が日本へ復帰したのは2011年。一方、松坂が日本に復帰したのは2015年。しかし、その後輩は帰国してからずっと苦しんでいた。右肘、そして右肩にメスを入れ、日本球界での復帰初登板は2016年10月2日。その楽天戦に、松井は代打で出場。ただ、初球に死球を受け、2人の再戦は、わずか1球で終わっている。
ワールドシリーズで対戦し、日本の復帰戦にも出て、この日も出て、さらに松坂と一緒にプレーした経験まである。そんな“希有な関係”を持つのは、松井しかいない。
「稼頭央さんだったり(捕手の炭谷)銀仁朗だったり、ライオンズでプレーした選手には、多少、他の選手との感覚とは違いましたね」と松坂が振り返るのも当然の感情だ。
あの楽天戦から1年半を経て、ユニホームを再び変えた松坂が、マウンドに戻ってきた。「マウンドに立って、元気な姿を見ると、僕も『よーしっ』って思うしね」
松井も、松坂との“再対決”を心待ちにしていたのだ。
渾身の1球を投げた後、松坂のピッチングは荒れた。アドレナリンが、出過ぎたのかもしれない。続く源田壮亮に右前打、秋山翔吾に四球を許した2死一、二塁から、浅村栄斗に初球の143キロのストレートを中前へ運ばれ1失点。
「浅村君には、僕の投げミス。初球から来るのは頭に入れていました。ストライクゾーンから外していきたかったんですけど」
その反省をすぐ生かすのも、松坂らしさだ。