もちろん人間が住んでいるんだから問題点はいろいろあって、強制避難した人たちが避難先で「お前ら金もらってんだろ」「貰った金で店作ったんだろ」って言われたり、住民票を移さずに避難している人たちの税金や行政サービスをどうするかとか、銭がらみのトラブルは起こっていて、行く度に新しい話を聞きます。まあ、人間が住むということは日本全国、どこの街でも同じ問題はあると思うんですけど、誰が悪いかというと原発が悪いんですよね。
これから震災が風化していくのをどうするかという時期ですが、やっぱりここからはビジネスだと思うんですよね。向こうの人もビジネスをいっぱい始めていて、個人的に面白いと思っているのはいわき市の若い農家ですね。僕と同じ世代か少し年下ぐらいで、「ファーム白石」の白石(長利)君っていう友だちがいるんですが、畜産と野菜農家が組んでインターネット販売を始めたり、地元の同級生がやっている料理屋で地元の食材だけを使ったメニューを出してたりしています。彼らは大体、親から受け継いで社長になった後継者で、もともと福島は東京に出荷する農産物の生産拠点みたいなもんだったから、親世代は黙っていてもお金が入ってきたけど、震災後に自分たちでもう一回やり直そうって頑張っていますね。彼らと酒を飲んだときに、「震災は起きなきゃ良かったけど、震災が起こったから自分の人生を考え直した」「このままじゃいけないって自分たちで動くようになった」って言っていました。何も起きなかったら、あのまま何も考えずに農家をやっていたのかなって……。そういう人もいるわけです。
実際に、兄ちゃんたちが作っている野菜は美味いし、もともと福島には果物も野菜もうまいものはいっぱいあったから、ちゃんとアピールするようになっていますよね。震災が起こったことによって原発は爆発しちゃったけど、僕が温泉とかうまいラーメンとか楽しい場所がいっぱいあることを知ったように、関東の人にとって伊豆や熱海のようなフラッと遊びに行く場所になるといいなと思います。
本当は原発の周りとか、子どもたちも学校の修学旅行とかで現状を学べるような良い意味での観光地になったらいいと思っているんです。未成年には親御さんたちの考え方もあるし、そう簡単にはいかないと思いますけど。
福島をこれだけ回っていたらエフイチ(福島第一原発)を見ないのは逃げじゃないかという思いもあって、ずっと地元のコネクションを探って、2016年にエフイチの中に入りました。そしたら賛成・反対といろいろ言われたりしたけど、僕はそこの思想は無いんですよ。最終的には原発なんてなくなればいいと思っていますけど、現実として今は原発があって、爆発しちゃったのを処理しているから、思想だけ主張してもしょうがないじゃないですか。現場に行って、現実をちゃんと知らないと。そういう勉強もできる場所になればいいなと思います。
将来的には福島に人を運びたいっていうことが、いまの僕の個人的な夢になっているかもしれないですね。いや、もう趣味かも。