下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)
下川裕治(しもかわ・ゆうじ)/1954年生まれ。アジアや沖縄を中心に著書多数。ネット配信の連載は「クリックディープ旅」(毎週)、「たそがれ色のオデッセイ」(毎週)、「東南アジア全鉄道走破の旅」(毎月)、「タビノート」(毎月)
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カシュガル空港。外はマイナス15度。気候は厳しい。欠航も多い
カシュガル空港。外はマイナス15度。気候は厳しい。欠航も多い
涙の機内食。悔しいぐらいにおいしかった
涙の機内食。悔しいぐらいにおいしかった

 さまざまな思いを抱く人々が行き交う空港や駅。バックパッカーの神様とも呼ばれる、旅行作家・下川裕治氏が、世界の空港や駅を通して見た国と人と時代。下川版「世界の空港・駅から」。第46回は中国・新疆ウイグル自治区のカシュガル空港から。

【カシュガル空港と「涙の機内食」はこちら】

*  *  *

 カシュガルの空港で悩んでいた。昨年(2017年)の12月28日、僕はカシュガルから成都まで飛行機に乗るはずだった。四川航空である。この便は翌日、29日の成都―東京便に接続する。

 ネットを通して航空券を買った。東京までの運賃は4万3000円ほどだった。

 ところがカシュガルから成都までの便が欠航になってしまった。カシュガルの空港の外観は立派だ。しかしこの空港には、航空会社のオフィスがなかった。辺境の空港である。中国の西の端。乗り入れる航空会社のオフィスをつくるほどの便数がないのだろうか。中国特有の合理主義だろうか。

 チェックインフロアーにある案内所に向かった。英語が通じない。なんとか交渉し、四川航空の電話番号を教えてもらった。そこにかけたが、航空券を買ったエージェントに連絡をとれ……という。しかし空港はネットが通じない。再度、電話をかける。しかし返答は中国語。話が先に進まない。

 どうしても29日に帰国しないといけない理由があった。年末である。31日から信州に住む母親が上京し、我が家の家族と一緒に温泉に行くことになっていた。

 四川航空の成都―東京便は1日おき。つまり翌日の便になってしまうと、帰国は31日。温泉行きに間に合わない。それ以前に、31日の便がとれるのかもわからない。

 その日、カシュガルから成都に向かう便はもう1便あった。中国国際航空だった。案内所で訊くと、エコノミーは満席で、ファーストクラスしかないという。運賃は7410元。日本円で約12万5600円……。とんでもなく高い。

 ファーストクラス──。若い頃、1回だけ乗った。当時、新聞社に勤めていた。いまはないが、ノースウエスト航空がグアムに就航した。その取材がまわってきた。ファーストクラスが用意されていた。

 カシュガルの空港で悩んだ。どの方法をとれば、いちばん出費が少なくなるだろうか。ウルムチまで飛んだらなんとかなるだろうか。成都―成田便を変更するとさらに出費がかさむ可能性がある。

 ファーストクラスに乗るしかなかった。カシュガルの空港ではクレジットカードを受け付けてくれなかった。なんとかキャッシングで用意した。

 ファーストクラスは8席。乗客は僕ひとりだった。成都まで約3時間。機内ではワインが出され、いままで食べたこともないような上品な高級中国料理が出た。

 涙が出た。

 帰国後、航空券を買ったスペインのエージェントと四川航空にメールを送った。返答はまだない。