なんと、谷元がボークを取られたのだ。雨が降りだして、足場が良くなかったことに加え、マウンドに開いていた穴に足を取られたのが原因だった。この結果、一塁走者の源田が二塁へ進み、一度はアウトになった浅村も1死二塁で打ち直しとなった。
ちなみに、もし浅村の大飛球が風に戻されることなく、そのままスタンドに入っていたら、たとえボークでも本塁打が認められていた。これも“ボークラン”の珍事になるところだった。
命拾いした浅村は「ボークの後だったので、開き直って打ちました。ラッキーだった。同じ球は来ないと思っていた。甘かったら振りにいこうとした」と、仕切り直しの1球目、フォークボールが甘く入ってきたところを見逃さずに一振すると、センター左への勝ち越し二塁打となった。
西武は7回にも秋山の右前タイムリーで2点を追加し、8対5と快勝。辻発彦監督は「僕が現役のときは、『ボークでも打て』と言っていた。(アウトになっても)打ち直せるんだから。あのボークは大きかった」と笑いが止まらなかった。
●プロフィール
久保田龍雄
1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。