尾形氏:単純に「降伏」を求められることではないと思いますし、だからこそ米国の拡大抑止がある。ただ、北朝鮮が核を背景に強い対応に出てくるのは十分に考えられます。だから米国の専門家の間では「北朝鮮との交渉で核の保有を事実上認めてしまった時に日本や韓国でどういう議論が起こる可能性があり、米国はそのときどう対応すべきなのか」についても議論されています。「日韓の抑止力を高めないといけないし、日本や韓国に戦術核を持ち込むべきだという議論が出てくるのではないか」とか、「日韓に『自らの核開発を認めて欲しい』と言われたら、米国はどうするのか」といった議論をしているのです。「北朝鮮が核を持っていて日本には核がないからお手上げになる」というのは物事を単純化しすぎていて、そうならないための議論がなされています。

――仮に北朝鮮が核保有をしても日本がどう対抗するのかという議論をしないと、「先制攻撃しかない」という単純化した選択肢になってしまうわけですね。

尾形氏:核武装した北朝鮮に対してはミサイル防衛の能力を高めて撃ち落せるようにするのも一つの選択肢でしょう。石破茂・元防衛大臣が「平時こそ、こういう議論が必要ではないか」と発言して核についての議論を促したのは、今後米朝が直接対話し、北朝鮮の核保有が当面は実質的に容認される状況になりうる、という可能性を見据えてのことだと思います。ただ、これは私個人の考えですが、私自身は、「相手が核を持っているから、自分たちも核を」という単純な議論には陥るべきではないと思っています。「広島と長崎であれだけの方々が犠牲になった、世界で唯一の戦争被曝国として、あの犠牲の意味は何だったのか」ということになります。その前に、ミサイル防衛の強化など日本独自でやれることがあると思うのです。

――北朝鮮の体制保証と引換えに、北朝鮮が核を放棄することは可能でしょうか。

尾形氏:米国の多くの専門家たちは、「北朝鮮は『自分たちが核を放棄してしまったら、いつ約束を反故にされて、米国の攻撃を受けるのか分からない』と考えて、核をそう簡単に放棄しないだろう」とみています。北朝鮮は、最終的にはアメリカと直接対話をしたいと思っているわけですし、中国と韓国と日本のいずれの国も、アメリカに対して、軍事オプションを使わずに北朝鮮と直接対話をするように働きかけていくのが重要だと思います。米国が軍事オプションを使えば、この地域には、壊滅的な被害で出るおそれがあるからです。公には「圧力強化」を掲げながらも、水面下で、米国と北朝鮮をどう対話へと持っていくかが、いま日米韓にとっての最大の課題だと、私は思います。
(聞き手/横田一)