さて、今回はここまで「がん」がまったく出てこない。話を閉じるには、貴乃花と深い因縁のあるもう1人の大横綱にお出まし願わなければならない。
「ウルフ」こと千代の富士。1991年、頭角を現してきた当時18歳の貴乃花(当時は貴花田)に敗れたのがきっかけで「体力の限界」の言葉を残して引退し、昨年、すい臓がんで世を去った。61歳だった。
私は彼の断髪式にも出たほどのファンだ。貴乃花に続いて今度はすい臓がんに敗れたと知ったときは、心の中でつぶやいた。「千代の富士がかなわない相手に勝てるわけないよな」
安倍晋三首相の父である晋太郎・元外相。ミュージシャンのムッシュかまやつさん。アップル創業者のスティーブ・ジョブズさん。ジャーナリストの黒田清さん。チェコの元体操選手ベラ・チャスラフスカさん。いずれもすい臓がんで亡くなったとされる方々だ。
たとえ治療によって死期を遅らせ、死因を変えることができても、死そのものは避けられない。人間に選べるのは、死に敗れるまでをどう生きるかということだけだ。
名古屋時代の「遺体なき殺人」を振り返ると、被害者の人物像も殺害までのいきさつも、2人目の殺人容疑で再逮捕された暴力団関係者が死刑判決を言い渡されたかどうかも覚えていない。今回、過去記事を調べてやっと、無期懲役だったことがわかったぐらいだ。死に対してあきれるほど無頓着だったというほかない。
新聞の地方版には地元の人々の葬儀・告別式の情報を伝える「お悔やみ欄」がある。福島総局の次長(デスク)だった時はアシスタントが用意した原稿を淡々と処理してきた。
膨大な「死」が私の手を通っていった。どれひとつ同じもののない人生の終幕である。
みなさん。
本当にお疲れさまでした。