働き盛りの45歳男性。がんの疑いを指摘された朝日新聞記者の野上祐さんは、手術後、厳しい結果を医師から告げられる。抗がん剤治療を受けながら闘病中。
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あのクワッとした顔で迫ってくるのだから、凄(すご)みがある。
十数年以上前のある晩、東京・紀尾井町のホテルニューオータニの玄関付近で他社の政治部の記者とたむろしていると、目の前を家族づれの貴乃花親方が通り過ぎた。おっ、貴乃花だ、と記者たちが見たことに気づいた親方は、こちらにやってきて、文句を言いだした。なぜこんなところまで追いかけてくるのか、と。
いや、私たちは政治家の会合が終わるのを待っているだけです。
そう伝えると、納得して家族のもとに戻っていった。
まったく、マスコミがみんな自分を追いかけているなんて意識し過ぎだよな。大きな背中を見送ってから他の記者としゃべった。元横綱日馬富士による暴行問題に絡み、報道陣との間に壁を設け、緊張感を漂わせているようにみえる現在の姿に重なる。
私にはその数年前、同い年である彼の白星を必死で願った一夜があった。事件取材をしていたころのそれを思い出すと、今も懐かしさがこみ上げる。
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四課担。それは暴力団事件を担当する捜査四課を取材する記者の呼び名である。まだ政治部で働き出す前、名古屋社会部で四課担をしていた2年弱は私にとってささやかな誇りだ。
内輪の理屈になるが、事件記者の花形といえば、殺人など派手な強行犯を追いかける「一課担」と、汚職など社会的影響が大きい知能犯を追う「二課担」が挙げられる。それに対し、こちらはプロによる強行犯と知能犯を両方相手にしていることにプライドを持っていた。
さらに愛知県警の場合、よそでは行政を担うことが多い暴力団対策課も事件捜査で四課と競っていた。それぞれの捜査関係者と接触するために朝晩、各地に出没し、昼間は県警庁舎内をうろついて警戒する。そんな日々だった。