蒲田にある『居酒屋あんばら』が宅配便で受けとった「鮮魚BOX」は温度センサーつきだ。4本の温度計が箱の内側の両サイド、箱の底、魚のえらの中に差し込まれ、24時間、箱内の温度の変化を記録する。
「輸送の途中で、温度がどれくらい変化するかデータを取りたいとのことで、うちが協力しました。鮮度管理に熱心なところも萩大島船団丸さんの特徴ですね」と料理長の宮沢さんは満足げだ。
「萩大島船団丸」とは山口県萩市の沖合にある萩大島の漁師たちの団体だ。
彼らが浜でとれた魚を消費者に直送する「鮮魚BOX」は順調に売り上げを伸ばしている。今はまだ魚の多くを漁協経由で流通させているので、直販である「鮮魚BOX」が占める出荷割合は1割強といったところ。
だが、「まだまだのびしろはある」と「萩大島船団丸」代表の坪内知佳さんは自信をのぞかせる。そのためにも顧客満足度を高める努力は欠かせない。
今回の温度検証も、顧客満足を追求する一環だ。
「鮮魚BOX」は工夫に工夫を重ねてきた商品である。今から6年前。「鮮魚BOX」を出荷したばかりのころは、問題が山積みの状態だった。
「尾頭付きの刺し身は、お客さんに見せる魚の目が“生きて”いなければいけません。でも薄手のビニール袋に氷を詰めると、途中で袋が破けて水が流れだし、魚がびしょびしょになって、目が白く濁ってしまうんです。私は破けにくい厚手のビニール袋に氷を詰めるよう漁師たちにお願いしたのですが、それだとビニール袋を縛るのに手間がかかります。面倒くさがって、彼らは薄手のビニール袋を使ってしまう。そんなこんなで、飲食店からはしょっちゅうクレームの電話がかかってきました」
「この袋は使っちゃいけんって言ったじゃん」と坪内さんが怒ると、今度は漁師たちが氷に塩をぶちまけてガチガチに凍らせてしまった。氷が溶けなければ、魚もびしょびしょにならないと思ったのだろう。
しかしこれだと魚までガチガチに凍ってしまう。