一方、大動脈剥離は、内膜、中膜、外膜の3層からなる大動脈の壁において、まず内膜が裂け、中膜のなかに血液が流れ込むと、その勢いで血管が裂けて二つに分かれる状態です。2016年2月に大阪の繁華街・梅田で、車を運転中の男性が大動脈解離を発症し次々と歩行者をはねる事故が起きました。17年7月には俳優の中嶋しゅうさんが舞台上演中に急性大動脈解離を発症して亡くなりました。このような前触れのない活動中の突然死が話題になることが多くなっています。

 大動脈解離は大きくA型とB型に分けられています。

 A型解離は、心臓に近い上行大動脈に亀裂が入り、心臓側に出血すると危険です。

「心タンポナーデといって心膜と心臓本体の間の心嚢(しんのう)内に血がたまり、心臓が拡張できなくなり、血液を送り出せなくなるのです。すると脳虚血が起こり、数秒で意識をなくします」(安達医師)

 下行大動脈がおなか側に向かって解離するB型解離は、激痛に襲われます。救急車での緊急搬送が必要ですが、A型解離よりは生命の危機は少ないそうです。

「大動脈瘤は70代が発症のピークで、男女比は3対1程度です。大動脈解離は、70代が発症のピークで男性に多いですが、80歳を過ぎると女性のほうが増えます。生まれつき血管の中膜が弱いマルファン症候群という病気の患者さんは若年でも発症します」(同)

■症状 自覚症状はなく発症直後に激痛が起こり意識を失う

 大動脈瘤・解離は、発症するまでは、基本的に無症状です。ただし、大動脈瘤の場合は、瘤が大きくなると、声帯をつかさどる反回神経が瘤によって刺激され、しわがれ声になります。また、気管が圧迫された場合は呼吸困難、食道が圧迫されるとのみ込みにくい嚥下(えんげ)障害が起こることがあります。そして、ひとたび発症すると、胸から首や背中などに激しい痛みが起こります。

 自覚症状に頼れないため、生活習慣や遺伝性など危険因子を持つ人は日頃の検査が重要です。

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