文月悠光(ふづき・ゆみ)/1991年北海道生まれ。早稲田大学卒業。詩人。中学時代から雑誌に詩を投稿し始め、16歳で現代詩手帖賞を受賞。高校3年時に発表した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少18歳で受賞。詩集のほか、エッセイ集『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)、NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞、詩の朗読、書評の執筆など広く活動中(撮影者/キムラタカヒロ)
文月悠光(ふづき・ゆみ)/1991年北海道生まれ。早稲田大学卒業。詩人。中学時代から雑誌に詩を投稿し始め、16歳で現代詩手帖賞を受賞。高校3年時に発表した第1詩集『適切な世界の適切ならざる私』(思潮社)で、中原中也賞、丸山豊記念現代詩賞を最年少18歳で受賞。詩集のほか、エッセイ集『洗礼ダイアリー』(ポプラ社)、NHK全国学校音楽コンクール課題曲の作詞、詩の朗読、書評の執筆など広く活動中(撮影者/キムラタカヒロ)
この記事の写真をすべて見る
文月悠光さんが訪れたAERA dot.編集部(撮影/写真部・小原雄輝)
文月悠光さんが訪れたAERA dot.編集部(撮影/写真部・小原雄輝)

 よく耳にする「モヤモヤ」という言葉。便利さゆえに多様されるけれど、奥底には言葉で表現できない気持ちが潜んでいるような……。18歳の時、詩集『適切な世界の適切ならざる私』で中原中也賞を最年少受賞した詩人、文月悠光さん(26)がそんな「モヤモヤ」を詩的読解するエッセイがスタートします。

*  *  *

 どこ? どこなんだ、AERA dot.編集部は……。

 その日、新連載の企画を練るために朝日新聞社を訪ねたものの、私は広大なオフィスフロアで迷子になり、冷や汗をかきまくっていた。

「ふづきさーん」

 書類やパソコンの陰から、M編集長と担当編集者Kさんの姿が見えた。「……ああ。ここだったんですね。お待たせしてすいません」ととっさに平静を装う私。

 初めまして、「生きてる詩人」です。初対面の方に「生きてる詩人って、いたんですね!」と驚かれてしまうことが多いので、最近は少し開き直って、自ら文章の中で挨拶できるようになってきた。

 といっても普段から堂々と「詩人」を名乗っているわけではない。この日も、記者たちが粛々と働く「会社」という場の空気に堅くなり(会社員経験ゼロなのだ)内心縮み上がっていた。

 詩人とAERA。我ながらあまりに異色な組み合わせで、編集さんを前に顔が引きつる。

 詩人として活動している自分が、こんなことを思ってはいけないのだろうけど、「詩人」を名乗るのって、やっぱり微妙に恥ずかしいのではないか。

 多くの人にとって、詩人は教科書の中だけの存在か、そうでなければ架空のキャラクターのようなもの。詩人といえば精神薄弱、病気で夭折、酒呑み、破天荒……とネガティブなイメージがつきまとう。このときばかりは中原中也を恨む。

 若い女性が詩を書いているというだけで、「痛いポエマー」「メンヘラ」扱いされてしまうのも納得がいかない。ポエマーは「夢見がち」「軽んじてもいい」みたいな風潮。

 そうしたモヤモヤした気持ちを、私は初めてのエッセイ集『洗礼ダイアリー』に綴った。その一冊を手に、M編集長は連載企画についてこんな提案をしてくれた。

「20代の若い人と話すと、自分の中でわだかまっていることを『モヤモヤする』『モヤってる』って表現する人が多いんですよね。そんな日常の『モヤモヤ』をとりあげて、詩人の言葉で読解していくエッセイはどうですか?」

次のページ