謝金の受け取りは多くの病院で禁止され、「謝礼は受け取れません」と張り紙までされているが… (※写真はイメージ)
謝金の受け取りは多くの病院で禁止され、「謝礼は受け取れません」と張り紙までされているが… (※写真はイメージ)
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 東京を中心に首都圏には多くの医学部があるにもかかわらず、医師不足が続いている。そのような中、現役の医師であり、東京大学医科学研究所を経て医療ガバナンス研究所を主宰する上昌広氏は、著書『病院は東京から破綻する』で、肥大した「謝金市場」の実情に迫っている。

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 誰も教えてくれない医師への謝金について考えてみましょう。

 かつて、入院すると医師に謝金を支払うのはごく一般的なことでした。医師も当然のように考えていました。知人の医師は、90年代、心臓カテーテル治療で有名な病院で研修していました。部長が一人で回診すると、毎回ポケットが膨れていることに気づいたそうです。回診中に患者から謝金をもらっていたためです。後日、先輩医師から、この部長の回診は「(謝金)回収」と呼ばれていることを教わりました。

 70年代、東北地方で研修していた医師は、先輩から「謝金をくれた患者はできるだけ時間をかけて丁寧に診察するように」と習ったそうです。先輩の指示を守ったこの医師は、後日、同部屋の患者全員から謝金をもらったそうです。

 歳月が経過して、医療を取り巻く状況は変わり、現在、謝金の受け取りは多くの病院で禁止されています。「謝礼は受け取れません」という紙も貼り出されています。

 ところが、実際は、いまでも病院で謝金の授受はあります。都内の病院に勤務する外科医は、「謝金をいただくことはあります。バブル最盛期と比べると少し減りましたが、結構な金額になります」と言います。額面については、都内の私大病院に勤務する40代の外科医は「3万から5万円くらいが多いです。ただ、すべての患者さんがくれるわけではなく、10人に1人くらいです」と言います。

 謝金を支払う習慣のない地域もあるようです。たとえば、東京都墨田区の都立墨東病院に勤務経験がある外科系医師は、「墨東病院時代は患者から謝金をもらったことは一度もない」と断言します。しかし、所得が東京で最も高い港区内の病院に勤務する50代の外科医は、「手術をすれば8割くらいの患者から謝金をいただく。普通は10万円」と言います。

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