マルチな才能を発揮しつつある昌子源(写真:getty Images)
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 高い、強い、速い、巧い――。そんな多士済々の刺客を敵に回し、自軍のゴールを守り抜く。それがサッカーにおけるセンターバックというポジションだ。

 もっとも、歴代の日本代表で大きな足跡を残してきた偉才の中にも『万能人』は、めったにいない。多数派は尖った個性で勝負するスペシャリストだろう。従って、代表監督の多くは長所の異なるエキスパートを組み合わせながら、補完関係を築いている。

 例えば、1998年のフランスワールドカップでは『巧さ』の際立つリベロの井原正巳が『強さ』の秋田豊と『速さ』の中西永輔を従えて3バックを構成。大国アルゼンチンとの初戦では、秋田が巨砲ガブリエル・バティストゥータに肉弾戦を仕掛け、中西が韋駄天クラウディオ・ロペスを完封し、井原の手練手管が水際でチームの危機を救った。

 また、印象深いのは2010年の南アフリカワールドカップでタッグを組んだ中澤佑二(横浜FM)と田中マルクス闘莉王(京都)のツインタワーだ。日本史上空前の『高さ』は国際レベルの代物。歴代日本の死角だったロングボールとクロスの対応力に優れ、セットプレーでは貴重な得点源にもなっている。彼らの存在なくして16強入りはなかっただろう。

 フランス、南アフリカ両大会のセンターバック陣は、いずれも自陣に引いて守りを固めたときに持ち味が生きた。いわば『籠城戦』仕様の職人だ。逆に最終ラインを高くして守る『野戦』向きではなかった。中西を例外とすれば、敵のカウンターアタックを封じるスピード対応(速さ)に弱みがあったからだ。

 従って、センターバック陣のキャラがチームの戦い方にマッチしないと、短所ばかりが顕在してしまう。しかも、現代ではアタック陣の高速化・大型化に拍車がかかり、前線からのプレスも強化され、その圧力をかいくぐって球を逃がす力まで求められるようになった。かつてのようなスペシャリストが生きにくい時代である。

 目下、イングランド・プレミアリーグで活躍する吉田麻也(サウサンプトン)は歴代のセンターバックと比べて『高さ・強さ・巧さ』と多方面に融通が利く選手だろう。いや、それでなければ、世界最高峰のリーグに属するクラブに居場所があるはずもない。

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