「初めて三姉妹が揃う場面では、スタジオにメディアの方が大勢いるという状況で、夢中で演じました。撮り終った時、ディレクターのOKが出た後、滝沢先生が、私の演技を『良い』と評価して下さり、女優を続ける自信が芽生えました。『三姉妹』は、私の俳優人生の原点です」

 栗原さんの言葉からも、過去の4作を凌ぐ作品にしようというスタッフとキャストの真剣さが伝わってくる。ちなみにこのお雪役で栗原さんの人気に火がつき、「コマキスト」が多数生まれた。

 大河ドラマの初期から制作に深く関わった元NHKドラマ部の大原誠さんは自著「NHK大河ドラマの歳月」で、「三姉妹」の意義について次のように述べている。

「これまでの4作品が歴史上の有名人、すなわち井伊直弼、大石内蔵助、豊臣秀吉、源義経であったのに対して、無名の一市民がクローズアップされたことです。激動の波にもまれながら、数奇な運命を余儀なくされた旗本の三姉妹(中略)、もちろん旗本出身の人物がほんとうに庶民としえるかどうかは疑問ですが、少なくとも架空の無名の人物を主人公に選んだ挑戦は、大変意義深いことでした。また、前4作がある一人の人物の波瀾の生涯を描いてきたのに対して、この作品は一種群像劇の形をとり、その後の大河ドラマに大きな影響を与えています」

 今までにはなかった新しい大河ドラマを作ろうとしたスタッフのチャレンジ精神が横溢している「三姉妹」だが、いまNHKアーカイブに残されている映像は、第19話と総集編前編の一部のみだ。

 しかし大原氏が指摘しているように、そうしたスタッフの高い志がいまの大河ドラマ作りにも生かされているに違いない。(文/植草信和)

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植草信和

植草信和

植草信和(うえくさ・のぶかず)/1949年、千葉県市川市生まれ。キネマ旬報社に入社し、1991年に同誌編集長。退社後2006年、映画製作・配給会社「太秦株式会社」設立。現在は非常勤顧問。

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