サッカーの母国イングランドは独特の文化を持っている。
FA(イングランドサッカー協会)を設立してルールを統一する際に最大の論点となったのは「ハッキング」を認めるかどうかだった。ハッキングとは、相手の足(主に脛)を蹴って撃退する行為だ。もう一度書くが、相手の脛を蹴って撃退すること。これが普通に行われていたわけだ。
ハッキング容認派は「禁止などしたら男らしさがなくなる」と主張したが、最終的にハッキングは禁止となり、脱会したメンバーを中心にラグビー協会が設立された。ボールを手で扱うかどうかよりハッキングの有無が問題だったのだ。
かつてイングランドリーグでは退場を宣告された選手は場内を一周するのが慣例だった。観客からブーイングされる辱めを受けさせるためだ。ドリブルが得意な南米選手は「早くパスしろ」と野次られた。あのクリスティアーノ・ロナウド(レアル・マドリー)ですら、マンチェスター・ユナイテッドに来たばかりでドリブル小僧の時分は「通用しない」と酷評されていたものだ。
1998年ワールドカップでディエゴ・シメオネ(アトレティコ・マドリー監督)の挑発に乗って退場となったデイヴィッド・ベッカムは、ホーム以外のどのスタジアムへ行っても非難囂々(ごうごう)。元スパイスガールズのヴィクトリアと結婚してセレブ道を突き進むのを快く思わない人々も多かった。洗練されたファッション・アイコンより、パブで乱闘する男のほうが好ましい。
ドイツ・ブンデスリーガのヘルタ・ベルリンから退団濃厚の原口元気は、イングランド・プレミアリーグへの移籍が噂されているが、原口はプレミアリーグに馴染むと思う。
行った先のクラブにもよるけれども、クオリティーに問題はない。何より、ガソリンが尽きるまで動き続ける運動量と闘志はイングランドのファンが求めるものと合致している。華麗なテクニックや優れたセンスも称賛されるが、走らない選手は評価されない。走って戦う、それが最低限の条件になる。