お国柄を感じるのは、日本の五月病のように、職場や学校などの環境の変化によって大勢が同時期に不調を訴えるような事例は「目にしたことがない」ということだ。

「アメリカでは日本のような入学式や入社式などはなく、季節の変化も日本人ほど意識しません。特に社会人は転職が多く、一斉に同じ時期に入社して仕事を始める習慣がないので、五月病的な現象はまったくと言っていいほど見られません」

 冬休み休暇明けに憂鬱になる「January blues」はアメリカ以外にも、クリスマス休暇を重視する国ではよく見られる症状だ。「イギリスでも1月はみんな気だるそうにしています。一方で5月は春の気配を感じて、テンションが上がっている人が多い」(30代女性、日本在住のイギリス人イラストレーター)、「ドイツにはUrlaubsbluesという言葉があります。長期休暇明けの憂鬱という意味。ドイツ人は休暇をとても大切にするので、気分が沈む人が多い」(20代男性、現地在住のドイツ人学生)。

 陽気なイメージがあるブラジルでも、クリスマス休暇明けは憂鬱な時期。

「五月病のような名前はありませんが、1月中旬から2月にかけては人々の気分が落ち込み、経済が停滞します。またブラジルらしいのが、サンバカーニバルが終わる2月後半から3月にかけて“カーニバルロス ”があること。ブラジル人は半年前くらいから準備を始め、文字通り命がけで楽しみます。結果、心にぽっかりと穴が空いて、仕事が手に付かないという人が大勢いる」(30代男性、現地在住の日本人会社経営者)

 一方で、五月病やJanuary bluesのような概念がない国もある。タイに10年暮らしたジャーナリスト・室橋裕和氏はいう。

「タイには五月病的な症状に見舞われる人はあまりいません。タイ人は基本的に楽しさや都合のよさ、快適さを追い求める人々で、新しい環境でもどう楽しむかを考えるからかもしれません。すぐにブア(飽きた、つかれた、たるい)という人はいますが、ストレスはあまり溜め込まない印象。ただ、海外転勤などでタイに暮らし始めた日本人のなかにはストレスに悩まされる人もいて、時々自殺者も出ます」

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