2015年7月のウィンブルドンから翌6月の全仏オープンに掛けて、四大大会連続優勝を果たしたジョコビッチだが、その後は早期敗退が目立つように。今季は全豪オープンで2回戦敗退、今回のインディアンウェルズでも準々決勝で姿を消した。ジョコビッチのコーチを3年務めた後に、昨年末に袂を分かちたボリス・ベッカーは、ジョコビッチの突然の不調の理由を、全仏を制し悲願の“キャリアグランドスラム”を達成したためのモチベーションの低下だと明言した。

「全仏優勝後、彼の練習コートや試合に挑む態度は、大きく変わってしまった。エネルギーが感じられず、大会にも勝つために向かっていなかった」。昨季後半の状態を、ベッカーはそう振り返った。

 そのジョコビッチに代わり、昨年終盤に驚異の追い上げを見せ世界1位に座したアンディ・マリーも、今季はここまで苦しい戦いが続いている。2月末のドバイ大会は優勝したが、全豪オープンは4回戦敗退、インディアンウェルズでも初戦免除の2回戦で、予選あがりのバセク・ポスピシルに敗れた。その後マリーは膝の痛みを理由に、マイアミマスターズの欠場も発表。マリーもまた、昨年終盤の疲労からの回復、そして宿願の1位獲得後の新たなモチベーション獲得に苦しんでいる。

 この上位2選手の現状について、彼らを「一段上のレベルに居る」と畏敬の念を向けていた錦織は、自分を重ねるかのように次のように語った。

「ここ2~3年、彼らがどれだけのことをやってきたかをみんな知っているし、神でもないので(勝利が)続く訳はない。これが普通なのかと思うし、いずれまた強く戻ってくるだろう」。

 昨年はオリンピックもありスケジュールが過酷さを増した中、ジョコビッチやマリーは新たな歴史を築き、錦織もキャリア最多となる79試合(58勝21敗)を戦い抜いた。錦織に限らず多くの上位選手がタフな状態に居る事実は、今季ここまで開催されたATP18大会(全豪も含む)のうち、第1シードが優勝した大会は僅か1つしかない数字に映し出される。

 その混沌状態の中から抜け出すのには、何が必要なのか……? 
答えは恐らく、錦織の中にある。(文・内田暁)

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