週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院2017」で、高齢者(75歳以上)へのがん手術の実情と各病院の判断基準について、がんの中でもっとも死亡者数が多い肺がんを取材。他のがんでも、術後合併症の肺炎を懸念する医師が多い中、肺がん手術はそのリスクを回避できているのか? 実情を紹介する。
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肺がんと診断された人の年齢別データをみると、75歳以上の割合は、48.8%と約半数を占める。高齢者のがん治療に詳しい国立がん研究センター東病院の小川朝生医師は、「他のがんに比べて肺がんを診ている医師のほうが高齢者に対する意識が高い」と述べる。また日本肺癌学会理事長、日本呼吸器外科学会理事で、近畿大学病院外科主任教授の光冨徹哉医師も「高齢者と一口で言っても、元気な人もいれば、さまざまな持病を抱えていて介護を受けている人もいます。多様性があるので、暦年齢だけで手術する、しないを決めず、個別に判断すべきだと考えています」と話す。
では、実際に肺がんの手術を受けている高齢者はどれくらいいるのか。
日本胸部外科学会の学術調査年次報告によると、14年に実施された原発性肺がんの手術数は3万8085件。最多が70~79歳の1万5765件で、90歳以上も58件あった。厚生労働省の患者調査の統計との比較から類推すると、患者全体における手術をする割合は、全年齢で約26%。70~79歳は約27%で、80歳以上は約14%となっている。高齢でも80歳ぐらいまでであれば積極的に手術を受けていることがわかる。
肝がんや胃がんの場合は、術後合併症として肺炎のリスクを懸念する医師が多いのだが、肺がんはまさに肺そのものを扱う手術でもある。肺がんの根治を目指して肺を大きく切除すれば、それだけ呼吸機能は失われる。術後合併症で呼吸器疾患が起これば、高齢者は命にかかわる。
だが、実際は先の数字を見る限り、むしろ積極的に手術をおこなっている。いったい、呼吸器科の医師はどんな工夫のもとで、高齢者に対して肺がん手術を実施しているのだろうか。