「出産は病気じゃないから皆、安全だと思い込んでるけど、ボクらは毎日、奇跡のすぐそばにいるから」。人気漫画「コウノドリ」の主人公で産科医である鴻鳥サクラの台詞だ。アエラムック『AERA Premium 医者・医学部がわかる』で、実在するモデル医師に話を聞いた。
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産科医でジャズピアニストという異色の主人公・鴻鳥サクラが登場する漫画「コウノドリ」は、難しいお産に直面した人々が対峙(たいじ)する、「命の瀬戸際」の医療を描いている。現在も週刊「モーニング」(講談社)に連載中で、2015年にはテレビドラマ(TBS系列全国ネット)にもなって話題をよんだ。主人公サクラには、モデルとなった医師がいる。
荻田和秀医師。
大阪府南部のりんくう総合医療センターで産婦人科部長を務めている。
「コウノドリ」の原作者である漫画家・鈴ノ木ユウ氏の妻の里帰り出産を担当したのが縁だった。荻田医師は漫画の連載が始まる前に鈴ノ木氏から連絡をもらい、東京出張の機会に会って、できあがったばかりのネーム(コマ割りや台詞などの漫画の大まかな下書き)を見せてもらったという。
「その晩はしたたかに飲んだので、帰りの最終の新幹線に飛び乗って読んだんです。早産の内容だったんですが、セリフや設定の体温がリアルでものすごく現場に近かった。そのことにまずびっくりしながらも、車内で号泣してしまいました」
鈴ノ木氏は、今も半年に1回は当院を訪れて、荻田医師や他のスタッフに取材をしていく。
「僕が主人公サクラのモデルといわれるのは僭越(せんえつ)やな、と思っています。サクラは冷静沈着な感じですが、僕は逆ですし(笑)。この漫画のリアリティーは、サクラをスーパードクターとして描くのでなく、救急医も含めチームで解決していく。現場に忠実に描いているところですね」
産科医でありながらジャズピアニストという設定についても、「楽器をされている先生方も多いですし、僕よりプロに近い方もいます。僕ら産婦人科医からみると、実はそんなに特異な設定ではないです」