「チャンスはあったけど、彼は強すぎた」
ロジャー・フェデラー(スイス)との4回戦を終えたあと、錦織圭はそう言って負けを認めた。スコアは6-7、6-4、6-1、4-6、6-3で、フルセットの試合は3時間23分を要した。しかし冒頭の言葉の通り、スコア以上の差を感じたのだろう。最終セットの勝率は歴代1位、全豪にいたっては100%を誇っていた錦織だが、テニス史上最高と謳われる生けるレジェンドが相手では、それらもただの数字に成り下がってしまった。
もっとも、立ち上がりはATPランキング5位の日本人選手が有利に試合を進めていた。最初の4ゲームを連取し、5−1までリードしたのだ。しかし、百戦錬磨の元王者は慌てずに、「これ以上悪くなることはない」と自らを落ち着かせてこのセットをタイブレークに持ち込んだ。接戦を制して錦織が第1セットをモノにしたが、フェデラーのエンジンが温まったのは明らかで、第2セット以降はサービスゲームを難なくキープしていく。フェデラーのストロークは次々とコーナーに決まり、サービスエースも量産し、第2、第3セットを連取する。錦織もなんとか食らいついて最終セットに勝負を持ち込んだものの、それまで右に左に走らされた疲労の影響か、医療タイムアウトを取るほどの状態に。渾身の力を振り絞って対抗したが、最後はフェデラーの美しいスマッシュによって、錦織の2017年全豪は幕を閉じた。
復活後と以前のフェデラーのプレーに違いはあったかと聞かれ、錦織は「攻撃的なプレーだし、今日はサーブがとてもよかった」と返答。この答えに今日の敗因が隠されているのではないか。
二人の明確な差は、サーブにある。フェデラーがエースを24本放ったのに対し、錦織は5本のみ。また錦織は本来、セカンドサーブからの得点が多いのだが、この試合ではそれがフェデラーの攻撃性の餌食になっていた。あるいは、35歳のスイス人選手は錦織がセカンドサーブからの展開を得意にしていると知っていて、あえてそこに集中して、ポイントを奪うとともに心理面でも優位に立とうとしたのかもしれない。自分の武器だと思っていた部分が通用しない時、競技者は心許なくなるものだ。
それから、ベースラインでの攻防でも主導権を握るシーンは少なかった。フェデラーはウィナーが83で、アンフォーストエラーが47。対する錦織は42と32。威力や精度はもとより、積極性でも劣っていたことがわかる数字だ。フェデラーがポイントを重ねるごとに調子を上げて、気持ち良くプレーしていた一方、27歳の日本人選手は時間の経過とともにプレーのバリエーションが減っていった。
17位の元王者にあって、5位のアジア史上最高選手になかったもの。帝王がマントを翻すような凛々しいバックハンドや、精確かつ威力あるビッグサーブに加えて、相手を心身ともに疲弊させる試合運びも特筆しておくべきだろう。(文・井川洋一)
錦織圭の2017年を占う 開幕戦準Vから見えた“成長と課題”