格上を連破した勢いがあったとしても、やはり予選から勝ち上がってきた選手に世界トップクラスの日本人プレーヤーを止めることはできなかった。1月20日に行われた全豪オープンテニスの3回戦で、錦織圭は世界ランク121位のルカシュ・ラツコ(スロバキア)と対戦し、6-4、6-4、6-4のストレートセットで勝利を収めた。スタッツ上、サービスエース以外の主要項目のほぼすべてで上回ったように、試合を通して相手を凌駕。特に大きな差を生んだのが、セカンドサーブでのポイントだった。
昨年の暮れに、ATP公式サイトは錦織のセカンドサーブ(とリターン)からの特別な強さを示す記事を掲載し、昨季を通じたそのポイントの確率は55.3%(7位)と紹介。迎えた全豪では1回戦からその数字を上回ってきたが、この日は67%と驚異的なパーセンテージを叩き出した。逆にラツコはファーストサーブの入る確率が57%にとどまった上、そこからのポイント獲得率も33%だった。
エースの数はラツコの12に対して錦織は5だったが、本人が試合後に「勝負どころで良いサーブが入ったので、楽になった」と話したように、角度や球質に変化をつけて相手に的を絞らせず、エースと記録されなくてもその後の展開を優位に進められるものが多かった。
そして次のラウンドでは、大方の予想どおりにロジャー・フェデラー(スイス)との対戦が実現する。ラツコ戦後、「フィジカルもメンタルもすごく良い状態」と話したように、錦織は試合ごとに調子を上げているが、35歳の元世界王者も同様だ。
昨年のウィンブルドン以降、ケガの治療に専念していたフェデラーはこの全豪で復帰しており、1回戦では1セットを落とし、2回戦はストレートセットで勝ったものの3セット目はタイブレークに持ち込まれている。しかし初の上位選手(フェデラーは長期欠場していたため、現在17位)との対戦となった3回戦では、10位のトマーシュ・ベルディハ(チェコ)をまったく寄せ付けず、6-2、6-4、6-4のストレートで勝利。要した試合時間はわずか1時間半だった。
「僕は常々、テニスプレーヤーは上位選手と対戦すると、自分のプレーも良くなるものだと思っていた。そうせざるを得ないからね」とフェデラーは試合後に話した。それが正しいものだとすれば、次の錦織戦ではさらに強くて美しい、トップフォームに近いフェデラーが見られるのかもしれない。錦織も尻上がりに調子を上げているが、ラツコ戦の第2セットでは、リードした後にミスによって流れを奪われかけた。グランドスラム史上最多優勝回数(17度)を誇る相手には、そうした隙が命取りになりかねない。世界中のテニスファンが注目する22日の4回戦では、集中力と精神力がカギとなるだろう。(文・井川洋一)