黒ネコといっても真っ黒だけではなくバリエーションもある。母島で特に多いのは胸と股の部分が白くなっている“白ビキニ”柄の黒ネコだ。連続して捕まることもあるが、同じ一族なのかどうかはいまだナゾのままである。
ねこ待ちで待機中のネコが黒ネコばかりになるときがあるのには、理由がある。ネコが東京に送り出されるのは、あくまで獣医師会所属の医師の引き取り手が決まってから。いきおい、引き取り手が付く見込みが高いネコからねこ待ちを卒業することになる。
一般的な里親譲渡会などでも同様だが、もらい手が尽きやすいのは圧倒的に子ネコ。大人になったネコは子ネコよりはもらわれにくくなる。そしてさらに、大人の黒ネコはほかのネコよりももらわれにくいのである。
黒ネコは熱狂的な愛好家を持つ反面、「不吉」「黒が不気味」など理不尽な理由で遠ざけられがちなのだ。そのため、捕獲されたネコが大人の黒ネコだとねこ待ち待機が長くなり、結果、待機中のネコが黒ネコだらけになってしまうのである。
待機時間が長くなるとそれだけ年を取るのでますます不利になるのだが、よいこともある。石間さんは、ネコ1匹1匹に愛情をかけているので、待機している時間が長ければその分人間になれるのである(どうしても心を許さないネコもいるようだが)。その結果、ここで半年の待機期間を経て、島内で引き取られたネコもいる。
璃空(リク♂)は、待機している間に推定1歳を超え、ますますもらい手がつきにくくなったところを父島在住の藤田曜(ひかる)さんに引き取られた。
「リクは石間さんの愛情もあり、とても人懐っこかったんです。私は実家でも黒ネコばかり3匹飼っていたので黒ネコ好きです。リクは私にとって癒やしの存在。周囲に『彼女ができなくなるよ』と心配されていますけど(笑)」と藤田さんは笑う。
もう一頭はアイボ代表理事・堀越和夫さんの家に引き取られた江戸っ子3号(通称:エド♂)だ。捕獲された直後から山にいたとは思えないほど甘えん坊、そして捕獲猫には珍しい巨体(約4kg)だった。ねこ待ちでケージ越しに愛敬を振りまくエドは、半年の待機中にさらに5kgに成長していたが、その性格の良さが気に入られた。今では堀越さん一家には欠かせない愛猫である。
しかし、島内での譲渡はなかなか難しい。多くの村民は都営住宅に住んでおり、基本的にペット禁止。また、譲渡は獣医師会経由で行われるため(小笠原では病気の確認などができない)、ネコたちは一旦、船に乗って上京し、検査後にふたたび島に戻るという手続きを踏むことになっている。藤田さん、堀越さんのネコも一度上京している。
いずれにしても当面ネコの捕獲は継続するので、小笠原ネコ連絡会議では島外での引き取り手を広げたいと「小笠原ネコプロジェクト!」というホームページを制作。ここを経由した里親募集にも力を入れていく予定だ。
さらに、元小笠原の住民でネコの捕獲にも関わっていたメンバーによる「LOVE!LOVE!黒ネコラヴァーズ」というFacebookページも立ち上がった。これは直接ネコの譲渡に関わるのではなく、黒ネコの魅力を伝えることで黒ネコへの偏見を払拭しようという目的で作られたものだ。
「いつも礼服を着ているようで、前足を揃えてきちんと座って見上げられるとたまりません」
「黒くてピカピカでカッコいい。日向ぼっこしている姿はまるで黒曜石のようです」
グループ参加者は口々に黒ネコへの愛を語り、黒ネコ好きを増やそうと書き込みをしている。
黒ネコが不吉と言われるようになったのは最近のこと。江戸時代の日本では「商売繁盛」「福が来る」と言われ好まれていた。本来、南の島の厳しい環境で生きなければならないところ、飼いネコになれるチャンスをもらった小笠原の黒ネコたちならば、さらに大きな幸運をもたらしてくれるのではないだろうか。(島ライター 有川美紀子)