「お疲れさまです。本日、中ノ平(母島の地名)で黒ネコ3匹が捕獲されました」
小笠原村母島在住のネコ捕獲チーム“ははねこ隊”宮城雅司さんから関係者に黒ネコの写真が添付されたメールが送られた。2005年からはじまり、2010年から本格化した小笠原の山でのネコ捕獲。捕獲されるとこうしてメールが関係者に送られるのだが、不思議なことに捕まるネコは圧倒的に黒ネコが多い。
東京から南に1000キロの洋上にあり、2011年には世界自然遺産に登録された小笠原諸島。どこの陸地からも遠いという地理的な条件もあり、固有種となった生物が多いことでも知られている。それらの生物は外来種に対して非常に無防備で、捕食されたり生息場所をうばわれたりして絶滅の危機に追いやられることも多い。
なかでも鳥類にとって脅威となるのはネコだ。人間が定着する以前の小笠原にはネコはいなかった(哺乳類はオオコウモリのみ)。鳥たちはネコに対して無防備で、簡単に襲われ食われ続けてきた。
しかし2000年に入ってからアカガシラカラスバトという希少種の推定生息数が「残りわずか40羽程度」と判明したため、野生化したネコの捕獲に着手。自治体や国、現地NPOなどが連携し結成した「小笠原ネコに関する連絡会議」が中心となり、野生化したネコを捕獲する事業を展開し、今も続いている。野生化した理由は人間の遺棄やネコの脱走によるものだ。
捕獲事業の中心となるNPO法人小笠原自然文化研究所(以下、アイボ)では、山や森にいるネコを捕獲する専門チーム通称「ねこ隊」を結成している。山中の自動撮影機に写ったネコの画像を見ながら捕獲カゴを山に仕掛け、翌日見回って、ネコが入っていればカゴごと背負って帰ってくるという力業を行うこのチームは父島、母島にそれぞれ存在する。
捕まったネコは、小笠原では公益社団法人東京都獣医師会(以下、獣医師会)の協力を得て東京に送られている。獣医師会側では受け取ったネコの状態を確認したあと人間になれる訓練を行い、最終的に里親を探して譲渡するのだ。今までに577頭が海を渡り新しい人生(ネコ生)に出発した。
ところで、東京と小笠原を結ぶのは、ハイシーズン除き約6日に1便の船便のみ。東京に渡るネコはいったん父島にある一時飼養施設「ねこ待合所」(通称:ねこ待ち)に入る。ここで飼養を行う専属スタッフ石間紀子さんに世話されながら、船を待つのである。
ねこ待ちが黒ネコだらけになることがしばしばある。実は、捕獲されたネコのうち黒ネコは34%にものぼる(図参照)。次に多いのはキジトラでそれでも15%、それ以外の模様はみんな一ケタ台なので、黒ネコがいかに多いか分かるだろう。
「なぜ黒ネコが多いのか理由は不明です。遺伝子的に優勢なのは白なんですが、捕獲ネコで白ネコの割合はトップ10にも入っていません。小笠原に黒ネコがたくさん持ち込まれ野生化したのかもしれませんが、そうなのかどうかもわかっていません」と首をかしげるのは、獣医師会の中川清志獣医師だ。捕獲を行っている父島と母島ともに黒ネコ比率は飛び抜けているが、両島は50km離れている。両島に同じように黒ネコが持ち込まれたとも思いにくい。