足の伸縮力を最大限に腕へ伝え、後ろ向きに進む動きは、ボート独特のものである。選考では基礎的な能力があるかどうかを見極めたうえで、実技指導を織り交ぜ、ボートを操るセンスを問う。その見極めに1年程度の期間が必要だ。「これぞ!」という選手がいれば、各都道府県のボート協会と連携して指導者を派遣するなど、臨機応変に強化体制を整え、徹底的に鍛え上げる。
森山さんは、タレント発掘事業の「シンデレラ・ストーリー」として、大門千紗(大分・日田林工高)の例を挙げた。中学時代は柔道で福岡県3位となり、重量挙げやラグビーなどの競技経験もある。ラグビーでは15歳以下の日本代表に選ばれた。大門は中学3年時に“発掘”され、ボートを始めて1年間で全日本軽量級選手権を制した。リオ五輪出場こそならなかったものの、現在は19歳以下の日本代表として東京五輪でのメダル獲得が期待される存在である。
「年齢は13歳から25歳ぐらいまでが対象となります。学生時代に持久走で学年の上位に入り、何かの競技に打ち込んだ経験のある人は名乗りを上げてほしい。ウインタースポーツをやっているアスリートも大歓迎」(森山さん)
東京五輪に出場するまでの“成長曲線”を逆算してみた。もし、初心者でボートを初めて2020年に照準を合わせるなら、19年の世界選手権で上位に入るか、同年の大陸予選を勝ち抜かねばならない。とすると18年には日本代表の座に就いている必要がある。ボートを漕ぐ技術を習得するために約1年かかることを勘案し、17年から本格始動とすると、年内に選考を受ければ、まだ間に合う。
あなたの周りに、ボート競技で即戦力となる好素材はいないだろうか? オールを一度も握ったことがなくても、東京五輪でのメダル獲得の可能性はあるのだ。(ライター・若林朋子)