今回、日本へ戻ってきた経緯も傑作だ。8月26日に再び日本に帰ってきた闘莉王だが、正式な復帰の打診を受けたのは月曜日、8月22日のことだったという。それに先立ってクラブの強化担当者から「こういうことになるかもしれない」と連絡を受けた翌日、本人曰く「肉屋で買い物をしていた時に」ボスコ・ジュロヴスキー監督から直に電話がかかり、「戻ってこい。水曜日のフライトを押さえたから」と言われた。「そんな急な話なの?」と困惑しながらも闘莉王はほぼ着の身着のまま飛行機に飛び乗り、日本にやってくる。ブラジルにはまもなく出産予定日である身重の妻を残してきている。自身も大の子ども好きである闘莉王にとっては苦渋の選択であったはずだが、そこは彼の「おとこ気」が勝った。「『ブラジルの方ではみんな元気で、日本ではみんな苦しんでいるからあっちに行きます』と言って、決断してきました」。こんな考え方をできる男は日本人でもなかなかいない。ましてや、地球の裏側からである。国内にいて「ちょっと行ってくる」というレベルの話ではない。

 そして現在、日本に戻ってきて10日ほどが経過し、闘莉王が参加したトレーニングセッションは計10回。わずか10回の練習の中で、すでに闘莉王を獲得した効果は出始めている。ジュロヴスキー監督が「彼にはリーダーシップを期待している。彼はナチュラルなリーダーだ」と話すチームへの影響力は大きく、まずもってそこにいるだけで練習の雰囲気が違う。チーム全体を見渡す視野の広さでチームメイトのプレーをつぶさに見つめ、ミスをした選手を厳しく叱責し、今ひとつのプレーを見かければアドバイスを送る。その一言の的確さには以前から定評があったが、約1年間のブランクを経てなおその眼力は衰え知らずだった。日本代表のレジェンドでもあるだけに闘莉王を尊敬する選手も多く、ひとたび褒められでもすればプレーの質がぐっと上がるから面白い。

 今季途中から加入しているセンターバックの酒井隆介などは、既に闘莉王に心酔しているような状態だ。「オーラがあるんですよ。後ろにトゥさん(闘莉王)がいてくれるだけですごい安心感があります。僕からもっと話しかけていきたいですね」と終始笑顔で話す。ここ2試合連続で試合中に足をつってチームに交代枠を使わせていた酒井だが、先週はスパイクを別のモデルにして軽量化を図るなど様々な対策を試していた。しかし1週間を終えてみての結論は「スパイクは変えません。足がつらないようにします。トゥさんが『お前はプレッシャーを感じ過ぎだ』って言ってくれたんです。見透かされました」と、メンタル面からのアプローチで回復を確信しているような状態だ。こうした対選手のマネジメント能力も闘莉王の長所であり、今季は左足首の負傷でずっとコンディションが上がり切らない状態が続いている永井謙佑ですら、闘莉王の檄に反応してキレを取り戻しつつあるほど。3年目の森勇人などは同じミスを繰り返して「何で同じことを繰り返す?バカタレが!」と愛あるお叱りを受けて逆に活き活きとしていた。

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