メニューがないお店と聞くと、「料金がわからない」「入りにくい」という印象を持つ人が多いのではないだろうか。あにはからんや、そうではない店も存在する。その中でも特に個性的な2店を紹介しつつ、来店時の心得も伝授しよう。
まずは「ミルクワンタン 鳥藤」から。有楽町駅と東京駅間のガード下に移転してきたのが1967(昭和42)年ごろ。それ以前も20年以上別の場所で営業していたという、開業70年以上の老舗だ。
店内の壁には一応メニューが貼られているが、料理は「ミルクワンタン700円」「焼飯700円」「もつライス700円」「焼飯半もつ800円」のみ。
こういうお店で大切なのは、最初にお酒を飲むのか飲まないのかをはっきりさせること。それによって、店主の段取りが変わるからだ。もちろんお酒を飲まず、「ミルクワンタンください」と言ってもいい。
ここではお酒を飲む場合の振るまい方をお教えしよう。 座ったらまずお酒を注文する。日本酒、ビール、焼酎があるが、銘柄は選べるほどない。日本酒は冷・燗(かん)・常温を選び、焼酎は麦・芋・飲み方を伝える。料理の注文はしなくてよい。なぜなら、勝手に出てくるからだ。
メインで料理を作るのは女将さんのすまこさん。お酒を頼むと最初に出てくるのは鳥のスープだ。「これで胃を柔らかくしてね」という気配りが心憎い。
第一の心得は、まずその日の空腹具合を伝えること。基本的に満腹で行く店ではないので、「お腹いっぱいだから何もいらない」は厳禁だ。
ブロッコリーや漬物、ぬたが乗ったやっこなどの小鉢が次々に出される。決まったものではなく、なるべく旬のものを出すようにしているという。すまこさんは能登半島の海育ちということで、たいてい魚もある。今回は秋刀魚の塩焼きだった。豚カシラ肉の串焼きも定番。ジューシーでおいしい。
第二の心得は、そろそろ満腹かなと思ったら、たとえまだ小鉢でもストップをかけること。このあとにメインのミルクワンタンが控えているからだ。
後半に出される炒飯はなんと、納豆付き。炒飯と納豆を混ぜて食べるよう指示される。「粘りも臭みもなくなって、大阪の人も外国の人も、食べられるのよ。嫌いだって言ってた人も食べられるんだから」。確かに納豆混ぜ炒飯、とてもおいしい。しかしこのころにはかなり満腹に……。
料理の品数はすまこさんが客を見て加減する。だいたい10品前後を出しているという。少量ずつだが、全体量は多く、かなりおなかいっぱいになる。まさにそれがこの店のポリシーだ。「おなかいっぱいになってもらって、2軒目にハシゴしないで済むように」と、すまこさんは話す。
締めはもちろんミルクワンタン。戦後間もない、お米が出せないころに生まれた名物料理だ。牛乳を使ったスープで、ワンタンのほかに野菜もたっぷり入っている。