会社を勤め上げて年金生活を送る山田太郎さん(77歳・仮名)は、東京の郊外に建てた二世帯住宅で、妻と長男夫婦、孫の5人で暮らしていました。長男は素直で親孝行な子に育ちましたが、二男は学生時代から素行が悪く、ほとほと手を焼きました。二男が作った借金を肩代わりしたことも、一度や二度ではありません。太郎さんの財産は、自宅の土地・建物(評価額約5000万円)と、預貯金や株などが合計約1000万円。長男には自宅の土地・建物と自宅の維持費として500万円程度のお金を残し、ゆくゆくは孫に家を継いでほしいと願っていました。
二男にはこれ以上財産を渡したくないのが本音ですが、1人だけゼロでは波が立つので、50万円ほど残すつもりでした。そして妻には残りの預貯金や株などを相続させれば、老後の生活の心配はないだろうと考えていました。
こうした自分の考えを太郎さんは同居する家族に話していましたが、結局、太郎さんの願いが実現することはありませんでした。太郎さんは遺言書を残さないまま急な病で亡くなり、相続権をもつ太郎さんの妻と長男、二男の間で遺産分けの話がこじれ、最終的には自宅を売却して現金に換え、遺産分割することになったのです。
遺言書がない場合、法律で定められた相続人(法定相続人)全員による話し合い(遺産分割協議)をおこない、誰がどの財産をどれだけ相続するかを全員で合意してからでないと遺産分割ができません。
遺産分割協議が困難になりそうだと予想される場合は特に、遺言書を残しておく必要性が高いといえます。また、先に挙げた山田さんのケースのように、特定の相続人に遺産を多く残したいと考えている人や、不動産など分割しにくい財産が大半を占めている人などは、生前に自分の考えを遺言書できちんと示しておくことで、遺族間で無用な相続トラブルが起こるのを防ぐことができます。