偏差値だけでは測れない「医師にふさわしい資質」を見るため、多くの医学部入試で「面接」と「小論文」が課されている。この最終関門の結果次第で不合格になることも。『医学部がわかる』(AERAムック)では、受験生の弱点を熟知する河合塾の専任講師・広川徹先生に「特効薬」を処方してもらった。本誌から、面接で最も重要な質問について抜粋して紹介する。
* * *
面接で「尊敬する人は誰?」と聞かれたら何と答えますか? ある医学部の教員の話では、尊敬する人に自分の親を挙げ、理由を「愛情を持って育ててくれたから」と述べる受験生が急増しているそうです。親を尊敬するのはいいことですが、将来、家族とは異なるさまざまな患者と接していく医師としては、視野が狭すぎるし、人間的な多様性に対する感度が低すぎます。子どもの感覚を狭く閉ざしてしまうような過保護は考えものです。患者の気持ちに幅広く共感できる「普通の人」が「いい医者」になれるのです。
医学部志望にもかかわらず、人の命や健康を大切に思う気持ちが低い受験生もいます。日本の医療課題を問われた際、ドクター・ハラスメントに好んで言及し、「患者のタチが悪い」「患者教育が必要だ」などと答えるケースも。「医者と患者はイーブン」という考え方なのでしょうが、患者は体や心を病んだ弱者で、医療の専門家ではないのです。弱者に共感できない人は、医師に向いているとはいえません。人の目を見て話すことができない、というのは、問題外です。
また、研究医を目指す受験生が陥りがちなのが、自分の関心ばかり話してしまうことです。「こういう研究をしたい」という熱い思いを持つのはいいのですが、そこに「患者のために」というマインドがしっかりあるかどうかが大切です。
たとえ学科試験が高得点であっても、「医師に向いていない」と判断された受験生は落とされます。面接はそのための最終チェックでもあるのです。
医師を志望する理由はどこの医学部入試でも聞かれます。この一見ありきたりな質問が、じつは最大にして唯一といってもいいほど重要です。本当に医師としての人生を選択しているのかどうか、その覚悟を問う質問だからです。ですが、ほとんどの受験生が失敗します。それは「本気」の思いが面接担当者に伝わっていないから。ここでいう本気とは、具体的な「将来ビジョン」の有無を指しています。
志望動機によく挙げられる「親が医者だから」や「子どもの頃に会った医師に感銘を受けて」というのは、「白衣の後ろ姿」に憧れているに過ぎません。重要なのは白衣の向こう側、つまり医師の仕事ぶりを想像し、具体的な将来ビジョンを持つことです。こればかりは誰かの指導でどうにかなるものではないので、受験生自身が考えるしかありません。将来像や医師の責任をリアルにイメージしづらいのであれば、ドキュメンタリー番組や本などで、間接的に経験値を高めておくことは決定的に大切です。