周囲の人の口が臭いと感じたことがある人、そしてそんな経験から「自分も臭いのでは……」と不安を感じたことがある人は多いのではないでしょうか。自分ではなかなか気づきにくい口臭、どうしたらいいのでしょう。
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老若男女を悩ませる口のにおい。民間調査会社が10代から60代の男女1200人を対象に実施した「歯に関する調査」(2014年)によると、「口について気になることは?」という質問に対し、男性で最も多かったのが「口臭」(34.2%)。女性でも歯の着色・変色に次いで第2位(33.2%)という結果に。男女ともに、3割以上の人が口臭を気にしていることがわかりました。
口臭とは文字どおり、吐く息などによって口から出される悪臭のこと。口臭の正体は「揮発性硫黄化合物(VSC)」と総称されるガスです。なかでも卵が腐ったようなにおいの硫化水素、血なまぐさいメチルメルカプタン、生ごみのようなにおいのジメチルサルファイドがにおい3大原因物質とされています。この三つを中心にさまざまな物質のにおいが混ざって口臭として感じられるのです。
鶴見大学歯学部病院で口臭外来を担当する中川洋一歯科医師は、
「口のにおいは誰にでもあるものなんですよ。とくに起きた直後は最も口臭が強くなります」
と話します。
口の中の粘膜細胞は新陳代謝によって、日々はがれ落ちています。これを口腔細菌が分解し、口臭の原因になるガスが発生します。唾液には抗菌作用がありますが、睡眠中は唾液の量が減っているので細菌が増え、ガスも発生し、起床直後は口が臭いのです。
起きて活動すれば、唾液が口の中を定期的に清掃し、菌の発生を抑えてくれますし、食べたり飲んだりすることでも細菌は洗い流されて数が減ります。
しかし何らかの原因で、VSCが人を不快にさせるレベル以上に残り、口臭を発生させてしまう場合があるのです。
鶴見大学歯学部病院の口臭外来では問診のあと、呼気を採取しオーラルクロマという分析装置にかけて、におい3大原因物質の量を調べています。呼気採取から結果が出るまでは約8分。中川歯科医師はこう話します。
「検査でにおい物質の量を見ると、まず本当に口臭があるかどうかがわかります。におい物質は誰にでもありますが、その量が人を不快にさせる口臭レベルにまで達していなければ大丈夫。受診者の中には、におっていないのに本人は口臭があると思い込んでいる『口臭恐怖症』の人も1割くらいいます」
口臭恐怖症は10代から30代くらいまでの若い人に目立ちます。きっかけの多くは、他人のちょっとしたしぐさ。話し始めたら相手が鼻を手で覆った、窓を開けた、少し離れたなどのしぐさに敏感に反応し、自分の口臭が原因なのだと思い込んでしまうのです。心療内科的な治療が必要な場合もありますが、実際に口臭がないことを数値で確認することで納得し、思い込みから抜け出せることもあります。
においの原因物質の量が基準値を超えた場合は「口臭がある」ということです。原因となる病気がない「生理的口臭」と、何らかの病気の症状として口臭が現れている「病的口臭」の大きく二つに分けられます。
生理的口臭の原因で圧倒的に多いのが「舌苔」といわれる舌の表面についた汚れによるもの。歯のみがき残し、入れ歯についた雑菌などがにおいを発している場合もあります。
一方、病的口臭には歯周病やむし歯など口腔由来のものと、糖尿病や肝臓病、胃腸の病気、のどや鼻の病気など口腔以外が原因のものがあります。
(取材・文/熊谷わこ)
■口臭チェック(編集部作成)
□ 舌の表面が白、または黄色っぽい
□ 「舌みがき」をしたことがない
□ 歯ぐきが腫れている、出血がある
□ 口の中がネバネバする
□ 歯がぐらぐらしている
□ 入れ歯をしている
□ 口の中がいつも乾いている
□ ストレスが多いと感じる
※週刊朝日MOOK『いい歯医者2015 若さと健康を保つ歯科治療』より抜粋