山本直樹先生は今もマックの古いドローイングソフトを使っていて、本当に細い均質な線で描かれています。漫画制作ソフトを駆使して何とか真似しようとしたんですが、やはり難しい。途中からデジタル作画は諦めて、丸ペンでケント紙にぎりぎり当たるか当たらないかという細い線をアナログで再現しました。あの回は、実を言うと細部はあまり山本先生のタッチとは言えないんです。一番見せ場のシーンをしっかりと似せて描いて、全体の演出を山本先生っぽくしたことで、前後のシーンも似てみえるという。モノマネ芸人でいうとセロテープで鼻をぐっと上げるような、どこか一箇所を誇張すると後は何となく似て見えるという、あの手法ですね。
毎月いろんな作家の絵柄を完全習得するというのは時間的に無理なので、セロテープに当たるものが、この漫画家さんの場合は何だろうというのを探ります。たとえば魔夜峰央先生であればフラットな感じの背景とか、その漫画家さん独特の演出方法を真似ています。
――漫画家さんとそのご家族から取材許可をもらうのが大変だとお聞きしました
アプローチをして、10件に1件許可をもらえたらいい方です。個人的なつながりでお願いすると何とかうまくいくんですが、出版社経由では漫画家さんのところに話がいく前に断られてしまうことが多いです。著名な漫画家さんのOKが出て、お子さんのOKが出て、食事にまつわる思い出があって、僕が絵柄を真似できるという、この4条件が揃わないとスタートできないんですよ。ものすごく人選が難しくて、ハードルが高いです。
断られる理由としては、プライベートは触らないでほしいという方や、家族仲があまりという方、取材なんてとお子さんが恐縮される場合もありました。意外に、田中圭一がパロディーで描くから嫌だというのは少ないです(笑)。基本的に取材NGの漫画家さんに「ペンと箸」の連載を送ったところ、これならばと応じてくれたこともありました。
それと、すごく有難い話なんですが、僕の担当編集者さんがみんな「ペンと箸」を大好きでいてくれて、無償で協力してくれたことが何度もあります。その人たちも、その漫画家さんのエピソードが読みたいというのがあるんですね。そういう期待を担って紹介されると、それに応えるちゃんとしたものを描かないといけないという気持ちになります。