「田中圭一のペンと箸―漫画家の好物―」第三話:赤塚不二夫と新宿の名店「山珍居」より(http://r.gnavi.co.jp/g-interview/entry/1471)
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田中圭一さん1962年、大阪府生まれ。サラリーマン兼業漫画家、京都精華大学特任准教授。代表作に『神罰』『死ぬかと思ったH』など
田中圭一さん
1962年、大阪府生まれ。サラリーマン兼業漫画家、京都精華大学特任准教授。代表作に『神罰』『死ぬかと思ったH』など

「田中圭一のペンと箸―漫画家の好物―」が泣けるとネット上で話題だ。ぐるなびが運営するサイト「みんなのごはん」で連載中のこの作品は、有名漫画家の素顔を家族の視点から描いた、インタビュー形式のグルメ漫画。作者の田中さんは自ら“最低お下劣パロディー漫画家”を名乗る異色の漫画家だ。“お下劣”を売りにしてきた田中さんが改心(?)したのは何故なのか。「ペンと箸」の裏話や、今後の展開について話を聞いた。

――「ペンと箸」は、どのように始まったのですか?

 依頼があったものの、グルメサイトで何をしようと途方に暮れました。とりあえず、漫画家の二世とご飯を食べながら、お父さんお母さんについて話を聞くのはどうだろうかと思いついたんです。というのも、手塚治虫先生の娘である手塚るみ子さんとは飲み友達で、漫画家二世飲み会を定期的に主催している彼女のツテで5、6人は続けられるなと。実は「ペンと箸」はそれで終了して、それ以降は別のグルメ漫画を書くつもりでした。この企画は、どう考えても取材先を探すのが大変なので。僕の芸風を知っている方は、おいそれとは取材に応じてくれないでしょうし(笑)。そんなに話題にもならないだろうと思っていました。

――ところが連載が始まると、有名漫画家の知られざるエピソードが満載で、初回から大反響でした。はじめから感動ものを描くつもりだったのですか?

 方向が決まったのは、第3回赤塚不二夫先生の回です。何といってもギャグ漫画の帝王ですから、娘のりえ子さんから面白い話がいっぱい出てきたんですよ。アル中で前後不覚なのに、入院している病院から抜けだして飲みに行って、大怪我をして帰ってきたとか。「いやあ、タクシーって止まってくれないねえ」と本人は笑っていたそうですが、「あんたそれ、明らかにそのタクシーに轢かれてるよ!」みたいな(笑)。

 でも最後にりえ子さんが、お父さんとお母さんを3日違いで亡くしたときの話をしてくれたんです。悲しいという気持ちも通り越して呆然としている時に、祭壇に置いてあった赤塚不二夫先生の漫画を読んで、思わずプッと吹いてしまったと。その瞬間、フワーッと気持ちが上がったそうです。「パパが家庭をぶっ壊してまでこだわり続けた“笑い”は、人を絶望の底からすくいあげる生きるエネルギーなんだって教えられた気がした」と話されました。

 これを描かない手はないし、僕もギャグ漫画家としてとても感動しました。タクシーに轢かれた話などは割愛して、その話をクライマックスに持ってきたところ、反響がすごかった。どういうわけか僕の引き出しに全くなかった「泣かせ系」が出てきて、自分でも驚いています。赤塚不二夫先生のキャラクターたちがりえ子さんを持ち上げている絵とか、人様のキャラクターで泣かせるのは反則だよという声もあるんですけど(笑)。

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