そこから「ペンと箸」の方向性が見えてきました。取材をして新鮮だったのは、ゲストのみなさんが必ず共通して「親に対する揺るぎない尊敬」を持っていること。そうした強烈なリスペクトを、純粋に書き綴っていくことが大切だと思っています。
――「ペンと箸」に登場された漫画家さんたちから反応はありましたか?
第1回のちばてつや先生は、息子さんが暴露したこと(食べ終わった煮魚の上にお湯をかけて飲むこと)を「秘密だったのに!」と、好意的にブログで紹介してくれました。それによってちばてつや先生のファン層が「ペンと箸」に注目してくれて、最初の起爆剤になりました。
江口寿史先生のご家庭は普段あまり濃密なコミュニケーションを取らないそうで、「娘から見た俺はどう見えているんだろう」と、娘さんがどんなことを言うのかに興味を持っていました。そこで取材中にお父さんに伝えたいことを聞いてみたところ、「ユーモアセンスを与えてくれてありがとう。江口家に生まれてよかった」という言葉が出てきました。普段は照れくさくて言葉にしない本音の部分を、「ペンと箸」を通じて伝えられたと思います。
――実際にゲストとご飯を食べながら対談されるとのことですが、話を聞いたり、漫画にまとめたりするときに気をつけている点はありますか?
「ペンと箸」もこれだけ連載を重ねると、ゲストが「何か感動的なエピソードはあったかな」と考えてしまうんです。それを意図的に作っては全く意味がないので、感動的なことよりも、いろんなエピソードを教えてくださいとお願いしています。
たとえば西原理恵子先生の回。長男のガンジくんはお母さんに対していろいろと怒っているんです。高須先生との朝帰りをフライデーされたこととか(笑)。そこは変な加工をしないで、ちゃんと描かないといけない。それにガンジくんはお母さんを反面教師としつつも、その不屈の精神や根性を本気で尊敬している。そうしたリスペクトを純粋に伝えつつ、作品のキャラクターを混ぜてわかりやすくビジュアルとして見せていくことが、この漫画のコアな部分です。
――「ペンと箸」は毎回、その回に登場する漫画家さんのタッチで描かれています。特に模写で苦労されたのはどの漫画家さんですか?
一番苦労したのは山本直樹先生、ツートップで池上遼一先生です。今はデータの画像をドット単位で動かせるので助けられていますが、ロジックではなく絶妙なバランスで成り立っている絵を真似るのは、ものすごく難しいです。