大きなバナナの葉の上に美しく盛りつけられたミールス
大きなバナナの葉の上に美しく盛りつけられたミールス
南インドの食堂の風景。地元の人たちは右手だけを使って上手に食べる
南インドの食堂の風景。地元の人たちは右手だけを使って上手に食べる

 本場インドカレーというと何を思い浮かべるだろうか?

 タンドーリチキン、キーマカレー、ナン……実はこれ、すべて北インドの料理。しかし近頃東京でおいしいと評判のカレー店は南インド料理店が多いのである。

 インドとひと口にいっても、日本の9倍もの国土と人口を抱える国。気候や人種、言語や文化もさまざまで、当然料理も北と南では違う。

 お肉ががっつりで油が多くリッチでグレービーな北インド料理に対して、南インド料理は野菜中心であっさり。北インドがナンやチャパティなど小麦が主食なのに対し、南インドはお米が主食。食べてみれば納得なのだが、実は日本人の口にあうのは南インドのカレーなのである。

 ところで、インド料理には定食メニューがある。北インドでは「ターリー」と呼ばれ、チャパティやナン(インド風のパン)と一緒にダール(豆のスープ)やサブジー(野菜カレー)などが大きなステンレスの皿に盛られテーブルまで運ばれてくる。

 一方、南インドでは「ミールス」と呼ぶのが一般的。地元の食堂ではバナナの葉っぱをテーブルに広げて、その上で食べる。人が使った食器は穢れているとするインド特有の浄不浄の観念も影響しているのだが、これだと皿を洗う手間もはぶけるし、食べ終わった葉っぱを道端に捨てれば牛のエサにもなる。エコロジカルで理にかなったシステムといえよう。

 目の前に置かれたバナナの葉っぱの上に、ご飯、サンバル(野菜カレー)、ラッサム(酸味のきいたスープ)、ポリヤル(野菜炒め)、アッパラム(豆粉の揚げせんべい)などが次々と盛りつけられていく。地元の人は右手を上手に使って豪快に食べる。ご飯もおかずも基本的におかわり自由。だまっているとお店の人ががんがん盛っていく、まさにカレーのわんこそば状態。これ以上食べられません、というまで笑顔で盛り続けてくれる。おなかいっぱいになる上、インド人の過剰なまでのサービス精神も体験できるのである。

 日本で南インド料理が認知されはじめたのは、京橋に「ダバインディア」がオープンした10年前あたりからといわれている。さらにここ数年で日本人シェフによる店も急増しているのだ。

 ここでは本当においしい南インド料理が食べられる東京の“小さな名店”を紹介しよう。

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