こうしたストレスはうつなど心の病に直結するだけでなく、「足が痛い」「だるい」といった体の症状として現れることもあります。高齢者の場合、ちょっとした症状一つにも、さまざまな問題が複雑に絡んでいるのです。
日本は戦後、高度経済成長とともに科学技術も著しく発展した結果、かつては死に至っていた多くの病気を治療可能にしてきました。平均寿命が大幅に延長したのは、こうした医療の進歩による部分も大きいでしょう。iPS細胞や認知症の進行を遅らせる薬の開発などが進み、老いですらいつか科学の力で治療できるのではないかと勘違いしてしまいがちですが、完全に老いを克服できるものはありません。
老いは治るものだという希望を持ち続け、不具合を元に戻そうと躍起になると、普段の生活において失望することのほうが多くなってしまいます。たとえば尿漏れやもの忘れは自分だけと悩んでいる人が多いのですが、周囲の同世代に聞いてみれば多かれ少なかれ経験しているはず。医師や気心の知れた人に話すだけでふっと気持ちが軽くなることもありますし、心地よく暮らすヒントを得られるかもしれません。
すべての人に訪れる老いのプロセスを受け入れ、不具合や病気が生じたときは完全に元に戻すことを目指すのではなく、上手にコントロールしながらつきあっていけばいい。気楽に楽しく生きることが、健康寿命の延長につながっていくのではないでしょうか。
【加齢による体の変化】
脳:新しいことを覚えにくくなり、もの忘れが増える
口:唾液が減少し渇く。のみこみづらくなる。歯が抜けやすくなる
呼吸器:肺活量が低下し、動くと息切れしやすくなる
心臓・血管:血管が硬くなる(動脈硬化)。心臓が弱くなり動悸を感じる
泌尿器:トイレが近くなったり尿漏れを起こしたりする
関節:靭帯や腱が硬くなり、関節の動きが悪くなる
目:視力が低下、近くも遠くも見えづらくなる
耳:高音域が聞き取りづらい。耳が遠くなる
骨:骨量が減少し、痛みや骨折を起こす。背中が曲がる
消化器:消化能力が落ちる。便秘気味になる
皮膚:乾燥し、弾力が低下する。感覚が鈍くなる
筋肉:筋肉の量が低下する。転倒しやすくなる
※週刊朝日MOOK「人生の再設計ガイド 70歳からのお金と暮らし」より抜粋