羽生結弦(20)が12月27日、苦しみながらも3年連続で全日本フィギュアの頂点に立った。
スケーティングのスピードもジャンプも、そして演技の切れも、決してベストの状態ではなかった。大切な冒頭の4回転サルコーで転倒、その後は無難にまとめたものの、本来の滑りは見られなかった。
「疲れている中で、スピードを落としてでも何とか滑り切りました」
「体調が悪い部分があり、大変でした」
普段、弱音を吐かない羽生が演技後、珍しく苦しかった胸の内をこう振り返った。さらに28日には、GPファイナル期間中から断続的に腹痛があり精密検査を受けることも明らかになった。
元五輪選手でプロスケーターの渡部絵美さんが、若き五輪王者の苦悩をこう忖度する。
「11月の中国杯での激突の影響を否定し続けてきた羽生選手が、こういう言い方をするということはかなり状態がよくないのかもしれません。練習が思うようにいかず、体力的に響いていたのでしょう。見えない大きなプレッシャーものしかかっていたようです」
それでも演技後半では、ショートプログラムでミスをした3回転ルッツを成功させ、鮮やかなトリプルアクセルも見せた。重圧をリカバーする強靭な精神力である。
持病の腰痛、古傷のある膝、GPシリーズ中国杯でのアクシデント…まさに満身創痍の中でそれを乗り越えて、つかみ取った日本一である。そんななか、次は何を目標にしていくのだろうか。
羽生の地元・仙台のあるフィギュア関係者は、羽生が心に秘めた「壮大な夢」について次のように語る。
「羽生選手は以前、『記憶にも記録にも残るスケーターになり、多くの人に希望を与えたい』と話していたことがあったんです。ソチ五輪を19歳で制し、ケガの逆境の中でも勝利をつかむ。既に記憶には確実に残っています。もしかすると彼は、次の五輪までの世界選手権とGPファイナル、全日本すべての優勝を狙っているのではないでしょうか。そして五輪連覇――」
目指しているのは、いわばフィギュア界のグランドスラム。もし実現すれば、圧倒的な記憶と記録に残るのはいうまでもない。
その一歩、連覇がかかる世界選手権は2015年3月に行われる。場所は、因縁の中国・上海である。
(ジャーナリスト・青柳雄介)