クライマックスシリーズ(以下CS)・ファーストステージの初戦が終わった翌日、日刊スポーツ紙に次のような見出しが立った。
「がけっぷちC…気になる台風19号の接近
今日、明日●中止になったらこのまま敗退」(※●は傘のマーク)
どういうことかというと、2位チームと3位チームが対戦する、ファーストステージは10/11~13日(雨天中止に備えた予備日が14日)、ファイナルステージは10/15~20日という日程が決められ、これは変えられないという前提があった。
そこへ台風19号の接近で10月13・14日は高い確率で試合ができないことが予想された。つまり、11日のファーストステージ第1戦を勝てば12日の第2戦に負けても1勝1敗になり、13・14日が雨天中止になれば、そこでファーストステージは打ち切られる。「勝ち数が同じ場合はシーズン上位球団が勝者」という規定に従って、ペナントレース2位の阪神が、ファイナルステージに進出できることを意味している。
広島が、第1戦でエース・前田健太をシーズン中にはなかった中4日で先発させたのは、第1戦を取らなければ次のステージに勝ち上がることが難しいことを知っていたからである。
前田は6回を1失点に抑え、期待に応えた。しかし、先発要員のヒースを1点リードされた8回途中からリリーフに送るというシーズン中には考えられない起用法を見ても、広島ベンチが心理的に追い込まれていたことは想像がつく。
阪神の投手起用にも目をみはった。守護神・呉昇桓が1イニング以上投げたのは今季64試合中わずか6試合しかない。それが、このファーストステージ第2戦では9回から11回までの3イニング投げた。
先発と違い、40~70試合投げるリリーフ投手は「1イニング起用」が基本。とくにリリーフの最後に出てくる抑え投手は、疲労残りを避けるため連投を少なくし、1イニング以上は投げないというのが基本だ。
それがCSで1イニング以上投げることを想定したかのように、9月以降4試合もイニングまたぎをしている。阪神首脳陣の用意周到さを見る思いだ。
2連敗した昨年は福原忍、久保康友(現・DeNA)、安藤優也、加藤康介、ボイヤーなど、目先を変えるリリーフ起用が目立った。それが今年は、絶対的な守護神を得たため、役割分担がはっきりして、勝ちパターンが出来上がっているというのが阪神の強みだ。
CS、日本シリーズという短期決戦はディフェンス力、とくに「先発→中継ぎ→抑え」という勝利の方程式が整っている球団が強いというのは歴史的事実。ここ数年、セ・リーグを席巻した巨人には山口鉄也、マシソン、西村健太朗、中日には浅尾拓也、岩瀬仁紀という絶対的なリリーフ投手がいた。呉という守護神が控える阪神と、抑えのミコライオが故障でシリーズ前に登録抹消されている広島とでは、先発投手への心理的負担が最初から違っていたと言っていいだろう。
打線は両チームとも沈黙を強いられた。短期決戦は打者に対するバッテリーの攻めがシーズン中より厳しくなる。たとえば、内角に弱い打者には徹底的に内角を攻め、外に逃げるスライダーに弱みがある打者には徹底的に外に逃げるスライダーを投げる。
シーズン中はそうではない。内角で勝負するために外角を意識させる、あるいは低めで勝負するために高めを意識させるという配球をする。その打者の得意ゾーン、苦手ゾーンを明確にして長いシーズンを乗り切っていこうとするからだ。それがCS、日本シリーズではシーズン中に明らかにした相手への弱点攻撃が行われる。
たとえば、広島・エルドレッドには弱みのある内角低めへのストレート攻めが執拗に行われ、2戦で9打数2安打、打率.222と封じ込めた。
第1戦が阪神の1対0、第2戦が延長12回0対0の引き分け――この投手戦がファンの心を打ったのは、バッテリーの“攻める意志”がはっきり見えたからに他ならない。阪神はファイナルステージに向けていいスタートを切った。
(スポーツライター・小関順二)