1989年より厚生省(当時)と日本歯科医師会は、「80歳になっても20本以上自分の歯を保つ」ことを目指し、「8020運動」をスタートさせた。20本以上の歯があれば、食生活にほぼ満足することができるといわれているからだ。その結果、80歳時で20本以上歯を持っているシニアは、1993年の11.7%から2011年には38.3%に増加。ただし、高齢者人口の増加ということもあり、シニアのむし歯を持つ割合も急増しているそうだ。
厚生労働省「平成23年歯科疾患実態調査」で、現在の歯に対するむし歯を持つ割合を1987年と2011年で比較すると、子供たちのむし歯の割合は減っているのに対し、65歳から74歳では68.1%から91.9%、75歳から84歳では46.9%から84.1%。85歳以上では65.1%(※85歳以上は1987年のデータ無し)となっている。
シニア世代でむし歯が多くなることについて、日本フィンランドむし歯予防研究会会長でベル歯科医院(神奈川県海老名市)の鈴木 彰院長は、「免疫力の低下」と「唾液分泌量の減少」、そして「歯周病などにより歯肉が退縮し、歯の根面が露出すること」を挙げる。
唾液にはカルシウムなどの無機質が含まれており、それが歯の表面に付着することで、歯のエナメル質を修復する。また酸性やアルカリ性などに傾いた状態を中性に戻す働きがあるため、むし歯予防には欠かせない。しかし高齢になるとこの唾液分泌量が減少する。また免疫力が低下し、歯周病に対する抵抗性も低下。歯周病で根面が露出すれば、その部分のエナメル質が溶け出し、むし歯になりやすくなる。
「根面露出した歯のブラッシングは難しい。特に高齢者になると、手指の動作が低下することもあります。そのため、シニア世代になってからではなく、それまでに正しいデンタルケア知識と、ブラッシング習慣を身につけることが大切です」(鈴木院長)
また、むし歯の主な原因となるミュータンス菌は、食べカスなどから歯垢(プラーク)をつくり、そこに糖を取り込みむし歯の原因となる酸をつくる。むし歯予防に効果があるとして注目されるキシリトールは、ミュータンス菌の活動を抑制し、プラークをできにくくする。また、キシリトールガムを噛むことで唾液分泌を促進。さらに酸によって歯が溶け出した際に、キシリトールはカルシウムレベルを上げて再石灰化を促すことがわかっている。
ちなみに、歯周病は年齢には関係ない。無症状に進行し、自覚症状が現れるのは40~50代が多いという。歯周病になれば、その後のむし歯リスクも高まる。高齢になってから慌てないためにも、40代頃から口腔健康に注意を向けることが重要になってきている。
日本フィンランドむし歯予防研究会
http://www.hanoyobou.jp/